二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】銀ノ鬼ハ空ヲ仰グ—花曇編— ( No.447 )
日時: 2011/08/25 10:53
名前: 李逗 ◆hrygmIH/Ao (ID: r9bFnsPr)
参照: !注意! 残酷描写有り。というか全て残酷描写。


斬って、薙いで、また斬る。
広い部屋、異形の人だかりの中を白と銀が交錯する。剣閃煌いて、紅と共にどしゃり、と異形が倒れてゆく。
圧倒的な人数差にも関わらず、一人の男と一人の少女はその圧倒的な力の差で次々と敵を斬りつけて行った。


第二十六話  長く続けたものの記憶っていうのは体に染み付いて離れないもんだ


和月がまた一人天人を斬ったのを、銀時は視界の端に捕らえていた。そして直後には、背後から斧をふりあげる天人の手を足を使って蹴り上げ、また斬る。銀時も自分の右手方向から襲い来る天人を、長い槍で吹き飛ばしそのまま切りつけた。

和月はいつのまにか自分の刀は鞘に収め、敵から奪い取ったであろう薙刀を手にしていた。和月が対多人数で戦うところを見たことが無い銀時は、はじめのうちこそちゃんと戦えるのかと心配していたものの、あの戦いぶりを見る限りではそんな心配は無用なようだ。
武器だけには収まらず、蹴りを入れたりと型の無い戦い方は、銀時のそれと酷似していた。

(いや、ありゃ俺と同じだがどこか違ぇ)

考えつつも、銀時は左右同時に斬りかかって来た敵を、槍と無意識に奪っていた刀とで斬り捨てた。
考え事をしながらでも体は勝手に動くから恐ろしいもので。それとも昔の記憶がそうさせるのか、定かではない。

(あの戦い方は神楽だ)

身体全体を使う戦い方は、片手で全体重を支えるなどの動きは無いものの、どこか神楽を——否、夜兎のそれを彷彿とさせた。
あくまで似ているのは雰囲気で、しかも己の直感だから、違うと言われればそれまでだが。
それにしてもどういうことだろうか。元々和月の運動能力が高い事は知っていたが、あの戦いぶり。自分の周囲を包囲された状態で戦う事に慣れているようだった。

(……まさか)

行き着いた可能性に、銀時は微かに眉を寄せた。

「っらぁあっ!!」

声と共に、和月は真正面の敵を一気に切り裂いた。
息つく間も無く続いて右、後ろと、次々に斬りかかって来る天人を、相手が剣を振るよりも早くに倒す。視界の端の銀時も、窮地に立たされる事なく天人を倒していた。
と、行き成り首にずしりと重い衝撃が来て、思わず足がよろける。それでも転びはせず、待ってましたと言わんばかりに突っ込んできた天人を刀で突いた。

「……な、」

首もとを見やった和月の眼に映ったのは、緑色の太い手らしきもの。背後に居る所為で見えないが、何か小さな天人か。和月がそれを確認した時、腕の力が強まった。絞め殺す気かと、反射的に左手でその腕を掴んだ。銀時がこちらに向かって何か叫んでいるのが見える。
瞬間、今迄自分達に敵意を見せなかった夜兎族らしき五人のうち三人が、和月目掛けて飛びかかる。
和月は舌を打つと、近くに居た牛の様な天人を蹴り飛ばす。天人は夜兎の一人を巻き込んで吹っ飛び、壁にぶつかり静止した。

「舐めんなぁあっ!!」

仲間など気にかけず傘で和月を狙う夜兎の攻撃を避け、未だ首を絞めようとしていた天人を両手で引き剥がして投げつける。
夜兎は投げつけられた天人を仲間にも関わらず傘で殴りつけ、もう一度和月狙って突っ込んできた。

まず一人。

和月は落ちていた槍と刀を拾い、傘を槍で受け止め、間髪入れずに刀で斬り捨てた。断末魔を上げて一人倒れる。
もう一人、と顔をあげたとき、既にもう一人の夜兎は銀時によって倒されていた。
そしてそのまま、和月が銀時の、銀時が和月の背後にいた天人を斬る。
三十人はいた筈の天人は、既に半数にも満たないほどに減っていた。
また一人、二人三人と斬り、残っていた夜兎二人も血だまりの中倒れていた。何時、どちらが斬ったのかなど覚えていない。
何時の間にか近くに居た和月と銀時は、そのまま二人背中合わせになる。

「何だ和月ィ。お前もう息切れか? 若ェのが情けねぇな」
「銀時兄ィにその台詞言われたくない!」

残っていた天人が、じりじりと間合いを詰めて歩み寄ってくる。その数は僅か二人。その顔は恐怖に歪んでいて、どちらが勝つかなどそれを見るだけで容易に想像出来た。
天人が和月と銀時のぎりぎりの間合いを持って止まった。
その瞬間、二人は同時に前に飛び出す。

奇声を発しながら応戦しようとする天人の急所目掛けて、二人は剣を薙いだ。ばっと血が噴射し、天人が倒れる。
それは一瞬の出来事で。
僅かな時間の内に全ての天人が血溜りの床に倒れ付し、その両の足で立っているのは銀時と和月の二人だけになった。

「あー、疲れた」

そう言うと、和月は血の無い比較的綺麗な床に座りこんだ。右手に持つ刀を無造作に放り投げる。
銀時はそれを見て溜め息を吐くと、自分もその場にしゃがんだ。少し位こうして座ってからでも、走れば充分脱出に間に合うだろう。

「……和月」

名前を呼ばれて、和月は銀時の方に顔を向けた。

「お前俺達の所から消えた後、戦に出てたな?」

和月の方を見ずに、銀時が言う。
和月が自分の所へ来て、京都に居たのだと言った時から予想していた。かつて京都は江戸と同じく攘夷戦争の激戦地だったから。
その予想が今、こうして二人で天人と戦った事によって確信に変わった。慣れていないとこんなふうに戦えない。

「……うん。やっぱり気付いてたかぁ」

予想していた通りの答えが返ってきた。
見やれば、和月はあはは、と笑いながら立ち上がる所だった。

「終戦までの一年間やけど、それなりに有名だったんだよ、京都では」
「……そーか」

答えると、銀時は膝に手をやりつつ立ち上がった。
これ以上聞くつもりは毛頭無い。和月の事だから、いつか言える時にその頃の話をしてくるだろう。
和月がこちらに駆け寄ってくる足音を聞いた銀時は、扉の取っ手に手を掛けた。