二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第一章 続8 ( No.10 )
日時: 2010/05/07 14:32
名前: お⑨ (ID: a32fGRWE)

「こ、これは流石にまずいな。」

現状にかなりの焦りを覚えた冬馬は、そそくさとその場を去る事に決め、狼と一緒に急いで公園を出ることにした。 
深夜帯だった為か、騒ぎにわざわざ駆けつける人がいないのが幸いだったが。
確実に警察に連絡は行っている筈だ。
それを考えると、長居は無用だ。

「人に見られちゃ不味い、急いで逃げよう。」

「そうですね。」

早速、その場を去ろうと走り出したその瞬間。

ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス。

「ぐあっ。」

「かはっ。」

冬馬達の体中に、激痛が走る。 
見ると、何本もの黒く太い紐のような物体が体を貫き、地面と自分達の体を繋ぎ止めていた。
かろうじで動く首を動かして、その黒い紐の先を見ると、先程茂みに転がっていた影の首が宙に浮き、まるで海栗の様に何本もの糸を突き出していた。

「くそ・・・・・・・グフ。」

言葉を放った瞬間、腹の底から鉄の味がする液体が噴出す。
不味い死ぬ。
その言葉が冬馬の脳裏をよぎった次の瞬間、直ぐ後ろで大きな爆発が起こった。 
大きな音の所為で鼓膜が破れたのか、一切の音が聞こえなくなり、視界にはあちらこちらの景色が強制的に映し出される。 
次の瞬間には目の前に地面が迫り真っ暗に成る。
遅れて、体中に強い衝撃と激痛が走る。 
まるで捨てられたゴミのように地面を数メートル転がり、仰向けに倒れたその視界には、見覚えのある物が飛んでくる。

ボト。

あれは・・・・・。 
余りの出来事に思考は着いて来てくれない。 
だが、これだけは分かる、倒れこむ自分の傍に落ちたそれは・・・・・・自分の腕だ。 
確認するように自分の腕が繋がっていたはずの場所に目を向けると、そこには見事に何も付いていなかった。
そして、何も無くなった箇所から大量の赤い液体が噴出していた。
そんな光景を冬馬は何故か冷静に見つめる。
そして気が付く、不思議なことに先程まで有った激痛は引いて全く痛みを感じていないことに。

『あれ、全然痛くないや。』

そんな事を思っていると、次に急激な眠気が襲って来る。 
そんな、眠気に襲われ意識が消え行く中で、何故か気になったのは狼の餌を買いに行かせた琴美の事だった。

『まっずいな〜、鍵閉めたまんまだ、またギャアギャアわめかれるな〜。
あっ狼は・・・・・・。』

首だけ起こして、周りを見ると、狼は黒い影の拘束から免れ、首と対峙していた。

『良かったあ〜。』

最後の最後まで他者の事を気にして、自分勝手に安心した彼はゆっくりと目を瞑り。

「ああ〜、グフッ、ねむ・・てぇ〜。」

誰にも聞こえない小さな声で、呟くと、そして完全に意識が途切れた。 

「許さない。」

自らを繋ぎ止めていた紐のような物を、強引に引き千切り黒い首と対峙する。 
黒い首はその口から次々と炎を吐き出してくるが、。
まるで、狼の目の前に見えない壁でも有るかのように狼に届く前に分散し消えていく。
狼は全身の毛を逆立て、体が光を放ち始める。
そして首に向かって大きく口を開け放つと、そこから凄い速さで光が放たれ一瞬にして首を消し去った。
今度こそ、敵の消滅を確認した狼は、力無く倒れている冬馬の許にヨロヨロとした足取りで近づいて行き、耳を口元に当てると微かに「ヒューヒュー。」と音がしているのを確認する。

「よか・・・・・・・った。」

息をしている事をを確認すると、冬馬に覆いかぶさるようにして立ち額と額を合わせる。

「こんな、状態で力を行使した私には、もうこの先を生きていく力は残っていません。
ですが双方の生命力を合わせることで、どちらか一方は生きることが出来るでしょう。
私が貴方と融合することで、貴方に重い使命を背負わせる事になるかも知れません。
巻き込んだ上に、身勝手な事この上ないですが、これ以外に方法が無いのです。
どうか、無力な私を許して下さい。」

言葉を告げながら、狼の体は強い光を放ち、冬馬と狼を包み込んでいった。
 
第一章  完