二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 東方 『神身伝』 ( No.16 )
日時: 2010/05/08 10:03
名前: お⑨ (ID: NzSRvas.)

第二章 続2

「っは。」

そこで、冬馬は目を覚ました。
夢から覚め、暗い部屋の中で上半身を起こし、夢の中で狼に触れた両手を見つめる。
その手の中に2滴3滴と水が落ちる。
冬馬は無意識に涙を流していた。
理由なんて解らない、ただその瞳からは涙が溢れた。
夢に出てきた狼の言葉『私は貴方の中に』、夢にも拘らず繊細に残るその内容。

「意味わかんね。」

病院で目を覚まして、何回口にした言葉だろうか、しかし今までのような負の感情の篭った言葉では無く、何処か嬉しさの様な雰囲気が漂った言葉だ。
冬馬は自然とその手を胸元に当てると、力強い自分の鼓動を感じる。

「助けてくれたんだよな。」

その方法は解らない、でも、あの狼が自分を助けてくれた事は解る。

「ありがとう。」

窓の外の、月明かりが綺麗な夜空に目を向け、独り言のように冬馬は呟いた。

暫く寝ようと目を瞑っていたが、一向に眠れる気がしない。
眠れない冬馬は、夜風に当たるために窓を開けて、暫く外を眺めていた。
今まで抱えていた謎や不安、そのどれ一つとして解決された訳ではないのに、彼は妙に清々しい気持ちだった。

「なんだか、いい気分だ。」

「それはいい事ですわね。」

独り言のつもりだった、いや、どんな言葉を発しても独り言になる筈だ。
ここは病院、しかも真夜中だ、コールでもしない限り、ノックも無しに病室に誰かが入って来る事なんて有り得ない。
勢い良く後ろを振り返り、声を押し殺して質問する。

「誰だ・・・・。」

病室の出入り口のところに、人影が見える、どうやら傘を差した女性の様だが、どうにも部屋が暗くてよく解らない。

「そんなに、警戒しなくても良くってよ。
怪しいものではありませんわ。」

驚くほどに透き通るような綺麗な声の女性は、ゆっくりと此方に近づいてくる。
一瞬にして緊張が走る、嫌な汗が一気に噴出し、緊張で水分を無くした喉がそれを求め、無意識に口にある僅かな唾液を喉を鳴らして飲み込む。

「だ、誰がこの状況でそんな言葉を信じるんだ?」

わざと余裕ぶって見せる、言葉の通じる相手なら、なんとかして言葉で言いくるめられるかも知れない。そんな僅かな希望が、彼に言葉を喋らせる。

「そうですわね、行き成り信用しろなんて無理なことですわ。」

彼女はその歩みを止める事無く、ゆっくりと確実に冬馬との距離を詰めてくる。
そう、まるで獲物に狙いを定めた獣のように。