二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 第一章 続2 ( No.4 )
- 日時: 2010/05/08 14:23
- 名前: お⑨ (ID: NzSRvas.)
部屋に着いた彼は、琴美をベッドに座らせると、その足で台所に向かい、コップに水を注ぎ彼女に手渡す。
「ぷっはー。」
ただの水を、これ以上無いほど美味しそうに飲み干すと、コップを彼に手渡し、ベッドに仰向けに倒れこむ。
「はあ〜、おまえな〜、毎回毎回何で俺なんだよ。
彼氏に迎えに来てもらえよ。」
「良いじゃない、幼馴染なんだからケチケチしたこと言ってんじゃないわよ〜。」
琴美は悪びれることも無くそう告げると、大きく呼吸をしてから上半身を起こして、眠そうな瞳で睨み付ける様に彼をみる。
「それに、彼氏とは別れた。」
それを聞いた瞬間に、少しばつの悪そうな顔を浮かべ、おでこに手を当て聞こえない声で「それでか。」と呟く。
ベッドに座る彼女の前にしゃがみ込んで、顔をしたから見上げる。
「っで、今回は何が原因だ?」
「知らないわよ、いきなり『別れよう』って言われた。」
少し俯き、表情が見えないようにする彼女を見た彼は、目をそらして『仕方が無い』といった感じにため息を付き、ゆっくりと立ち上って彼女の頭に優しく手を乗せる。
琴美は可愛らしいルックスと、その明るく無邪気な性格で、異性からそれなりにモテるのだが、なぜか決まって3ヶ月から半年程で付き合った異性に『ふられて』しまう。
その度に自棄酒をしては、彼の家にお世話になっている。
勿論それ以外の場合でも、泥酔状態で家に転がり込んでくる、まるで自分の家のように。
彼は琴美の頭に乗せた手で彼女を優しく撫でる。
「仕方が無い、夕方からバイトだからそれまでだぞ?」
「・・・・・・・・解った。」
琴美はその言葉を理解したのか、そのままベッドに潜り込んでいった。
それを見てから、彼は再びパソコンの前に座り込み就職活動の続きをはじめる。
「ねえ、冬馬。」
彼のその背中に琴美が声を掛ける。
「んあ?なんだ?」
冬馬と呼ばれた青年は、振り向かないまま、その呼び掛けに返事をする。
「・・・・・ありがとう。」
サササ・・・・・。
琴美はそれだけ告げると再び蹲る様にして掛け布団を頭からかぶった。
冬馬は、その言葉に小さなため息だけ付くだけで、返事をすることなくパソコンの画面に視線を向けていた。
午前中の出来事から、それなりに時間が経っていた。
「よし、何件か面接の申請出せた。」
冬馬がパソコンの画面を見ながらそんな事を呟いていると、再び携帯のバイブが鳴る。
携帯を開くとそこには店長と書かれている。
バイトの時間では無いことを確認してから電話にでる。
「はい、お疲れ様です。どうしたんっすか?
え!一人休みで足りないから、今から出てくれ?
わ、解りました、今から向かいます。」
ッピ
携帯の受話器を落とし、ベッドに目を向けと、そこには寝息を立てている琴美がいた、起こそうと近づくと、その瞳からは一筋の涙が流れている。
それを見た冬馬は「ふぅ。」とため息を付いて「・・・・・・今日だけだからな。」そう呟く。
そして、出来るだけ物音を立てないように急いで着替え、出かける準備をする。
テーブルの上にあるメモ帳に走り書きで何かを書き込み、タンスの小さな引き出しから鍵を一つ取り出して、そのメモ帳と一緒にテーブルに置く。
バイト先は、住んでいるところから自転車で10分程の場所にある駅前の喫茶店だ。
近くの駅自体がそれなりに大きく、止まる電車の種類も多い為に栄えている。
だから、時間によってはたかが喫茶店と言えど、その忙しさはそれなりのものだった。
バイト先に到着すると、客席は殆ど埋まっていて、店内は活気が溢れていた。
これだけの客入りなら、フロアには店員が必ず4人以上は居るはずなのに、今は2人しか見えない。
状況は見るからに忙しそうなのだが、どの店員もそれを決して表情に出すことは無く、客に対する対応もとても丁寧だ。
だがそれは表面上だけで、裏ではもはや戦争になっている事は目に見えていた。
急いでスタッフルームに駆け込み、制服に着替えて店に出る。
すぐさま店長から呼び出され、コーヒーやサンドイッチを作る厨房へと入る。