二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第一章 続5 ( No.7 )
日時: 2010/05/07 14:26
名前: お⑨ (ID: a32fGRWE)

「助かりました。」

今度は、はっきりとした言葉が頭に鳴り響く。
その言葉は耳で聴き取っていると言うより、頭のなかに強制的に言葉が浮かぶような感覚だ。

「なんだ?頭の中に声が。」

頭のなかに自分ではない何かが居るような、妙な感覚にとらわれる。
周りに誰かが居て変なしゃべり方でもしているのかもしれない。そう思い周りを見渡すが先程から辺りに人の気配はない。

「ど、どうなってんだ。」

訳が分からない冬馬は、その事に恐怖を覚える。
取り敢えず頭に感じる妙な感覚を振り払う為に、試しに頭を横に振ってみる。

「あ、あの大丈夫ですか。」

そこに、追い打ちを掛けるように再び頭に声が響く。

「誰だよ!」

得体の知れない声への恐怖から、冬馬は少しだけ声を荒くして叫び、再び周りを見渡す。

「ん?」

その時に、ふと目の前に横たわる狼の姿が目に入る。
狼は上半身をお越して、先程と同じようにこちらを見つめているが、その額が蒼白く光を放っているのが目に入った。

「あの〜、本当に大丈夫です?」

狼が心配そうな面持ちでこちらを見つめてくる。
そして、それと同時に頭の中に言葉が響く。

「まさか、お、お前が言葉を?」

彼は信じられないといった表情で狼に指を刺して質問する。

「え?は、はい、そうですが。」

その問いに答えるように再び言葉が頭に響く。

「お、おお狼が喋った。」

「っえ?喋れるのがそんなに珍しいことですか?」

狼は至って冷静に、喋れるのが当たり前のように答えるが、冬馬は普通なら考えられない現象に驚き、尻餅をついてしまった。

「お、狼が言葉を喋るなんて聞いたことも無いぞ。」

「……………そう・・・・ですか。」

狼は冬馬の言葉に、下を向いて暫く黙り込んでしまった。
冬馬も空気を読んだのか黙ってその様子を見つめる。そして、狼は意を決したかのように再び冬馬に視線をむける。
狼の額に灯る蒼白い光が、少しその明るさを増すと、再び冬馬の頭に声が響く。

「行き成りの事で信じられないかも知れませんが、恐らく私は違う世界からやってきたと思われます。」

頭に響くように聞こえる狼の言葉、その信じられない言葉に困惑する。

「………そ、そうなこと、有る訳が。」

当たり前の答えだ、誰がそんな非現実的な、アニメのような事を信じることが出来るだろうか。 
しかし、狼は、そんな冬馬の言葉を覆すように話を続ける。

「しかし、私は今まで、自分が喋る事に対して、驚かれた事なんて一度も有りません。
私が生きてきた世界では、少なくとも、そう言った事を疑問に思う者なんて居なかった。 
なら、違う世界から私はやってきた。こう思うのが妥当では?」

「でも、それでも。」

否定の言葉を口にはするものの、狼が喋るなんて、それ位の無茶な理由が無けりゃ、説明も付かない。
信じられないし、ありえない、そう思いながらも、現状では狼の言葉を信じるほか無く、半ば無理やりに納得する他に無かった。
二人はお互いに置かれた状況のほんの一部を確認した。
だが、それと同時に数多くの問題を抱えてしまう事になる。 

「と、取り敢えずそのままの傷じゃ駄目だ。一端俺の家に行こう。歩けるか?」

しかし、そんな事を、今考えていても埒が明かないと思った冬馬は。これ以上、狼の怪我を放置するのも得策で無いこともあった為に、取り敢えず自分の家に行くことを決めた。

「しかし、これ以上貴方に迷惑を掛ける訳には。」

狼は、冬馬の申し出を断ろうとする。

「大丈夫だよ、迷惑なんて思わないし、それに、このまま怪我してる奴をほおって置けるほど腐ってもいない。」

そう言うと、狼に近づき、立ち上がるのに手を貸そうとする。
 
「で、でも。」

「早くしてくれ、俺も何時までも裸で居たくないんだ。」

冬馬は、狼の応急処置の為に上着の全てを使ってしまった為、上半身裸の状態なのだ。

「わかりました、何とか。」

狼は、冬馬の言葉を聞き、半ば諦め気味に一緒に行くことを承知して、起き上がった。 
倒れこんでいたから正確な大きさは解らなかったが、いざ立ち上がってみると狼の大きさは、子供一人分ぐらいは乗せられる程に大きかった。

「あと、家に付くまでは絶対に喋っちゃ駄目だよ、騒ぎになるから。」

「はい、解っています。」

冬馬はそれだけ確認すると、周りに気を遣いながら、ゆっくりと狼の歩調に合わせて家路を急いだ。
運良く、家に着くまでには誰にも会うことも無く、問題なく家に入ることが出来た。