二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

第一章 続6 ( No.8 )
日時: 2010/05/07 14:27
名前: お⑨ (ID: a32fGRWE)

マンションの住人に出会わなかったのは本当に強運だと思う、だがしかし、俺の運もそこまでだったようだ。

「大きい犬ねぇ、ねぇねぇ噛まないわよね触っていい?」

「それよりも、何で帰ってないんだよ。」

そう、家のドアを開けると、そこには帰っていると思っていた琴美がテレビを見ながら、超が付くぐらい寛いでいたのだ。 
家に着いたら治療の続きをしながら色々と聞くつもりだったのだが、琴美の目の前で狼に喋らせる訳にはいかない。
もし、この狼が危険な立場なら巻き込む訳にはいかないからだ。

「なによぉ〜、いいじゃない別に何時もの事なんだから。」

全く悪怯れる事の無い琴美に、何とか席を外してもらう為に考えた末。

「解ったよ、じゃあ手伝ってくれ、先ずは餌を買ってきて欲しいんだが、頼めるか?」

琴美はそれに、満面の笑みで頷いて答えた。
財布からお金を出して琴美に渡す。

「ドックフードじゃなくって、生の鶏肉か何かを買ってきてくれ、精を付けるにはそっちの方がいいはずだからな。」

琴美はお金を受け取ると、「わかったぁ。」と返事をして、餌を買いに家を出た。

「すまないな、煩くて。
こんな予定じゃ無かったんだけど。」

冬馬は、琴美が行ったのを確認するとドアの鍵を掛けて狼に話し掛けた。

「いえ、優しい方じゃないですか。貴方と会話しながらも、私に『大丈夫だから。』と声を掛け続けてくれていましたよ。」

「………ああ、知ってる。まぁ、それは置いといて、取り敢えず水分を取らないとな。」

そう言って、深い皿に入った水を狼の口元に置く。

「ありがとう。」

そう言って、水を口にしようとした時「ピシィ。」

何かに罅が入るような音が鳴り響く。

「この音は………。」

冬馬はこの甲高い音に聞き覚えが有った。
今、目の前に居る、異世界から来たかもしれない狼と出会った時にも聞いた音だ。
その音が鳴ってから、暫くの沈黙が流れる。

そして狼が声を出す。 

「っく、来ます。」

その言葉を放つのとほぼ同じタイミングで、狼は冬馬をくわえて窓ガラスを突き破り外に飛び出していた。 
何が起きたのか解らない冬馬は、何も理解していない思考の中で先程まで自分達がいた場所が、青い炎に包まれているのを見つめていた。 
狼はマンションの下まで飛び降りるが、片足が無いせいかバランスを崩して、地面を体で滑るようにうに着地する。
その時にも冬馬の事を考えてなのか、自分の体を下敷きにして冬馬のクッションになる。

「ぐぁ。」

当然の如く、狼の体に全てのダメージが襲い掛かる。しかし、次の瞬間には再び立ち上がって冬馬をくわえ、その場から離れて表の道を走っていく。 
まだ何が起きているのか解らない冬馬は、狼にされるがままなのだが。
先程まで自分たちがいた場所に、何か黒い影が降りてくるのをしっかりと見た、そしてその影はそまま自分たちの後を追ってきている。

「な、何なんだよ。」

ようやく言葉を発することが出来たが、それ以外の言葉を口にすることは出来なかった。