二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【デュ.ラ】池袋浪漫【ララ!!】—1章《3》更新— ( No.15 )
日時: 2010/05/25 22:28
名前: 箕遠 ◆rOs2KSq2QU (ID: ZnpTReUX)

    ♂♀


 同時刻  池袋市内、某路地裏にて




 「ふぐおっ」
 「ぶがっ」
 「がはあっ」


 特に何でもない女子高生——————新見 ゆき(にいみ ゆき)は、ただ圧巻されていた。ついさっきまで後ろで固定されていた両腕が、今は自由に動かすことが出来る。なのに、逃げることをしないのは、それ程に現在の状況が壮絶なものだからだろうか。


 「ごはっ」


 胃液を飛ばしつつ、奇声と共に、4人目が地に沈んだ。鳩尾にシャベルが減り込んだせいか、ぴくぴくと痙攣を繰り返し、口元からはだらしない涎が線を作っている。
 先程までゆきを襲おうと躍起になっていた男たちは、今では全員夢の中へと入り込んでしまっている。白目を剥いて倒れこんでいるので、ゆきはそんなことを行っている人物に、恐怖を覚えずにはいられなかった。
 

 「…………て、てめぇ……何者だ……」



 最後に残ったリーダー格である男はそう呟き、この現状を作り出した目の前の—————持ち主の背丈程あるシャベルを手にした少年を、恐ろしそうに見つめた。
 かたかたと震える男を尻目に、少年は特に何でもないとでも言うように、涎がついたシャベルを一振りする。その少年の目は、ただただ深い青が広がるばかりで、他人を寄せ付けないような冷ややかな印象を与えていた。


 「……いや、何者かっつっても、奪い屋って名乗りませんでしたっけ。自分」


 つい3分前の俊敏な攻撃とは180度変わった、間の抜けた答えを返す少年。その答えも、感情の起伏がない静かな口調であった。冗談で答えているのかと思いきや、本当に不思議そうな表情をしている。


 「……は、はは……奪い屋……? そんなん、聞いたこともねぇよ……っぶごぶっ!!」
 「え、そうですか」


 男が乾ききった笑いを返すと同時に、少年は何の躊躇いもなくシャベルの柄で相手の首元を打ちつけた。頚動脈に勢いよく打ち付けられ、音もなく男は昏倒した。


 「……ひ……ひぃっ……」
 「……よっし、5つ確保。ってことかな」



 ゆきの小さな悲鳴と男を気にせず、少年はその体に跨ると、男の眼前に手を翳す。翳された手は特に変わりない、少年の綺麗な手だったのだが——————男は意識がフェードアウトする前に、少年の手の平を見て、意識が混濁していくのを感じた。
 そして、少年のか細い声を聞いた。


 「……貴方の悪いの、貰います」


 

     ♂♀



 「…………え?」


 ゆきは驚愕した。
 少年が大の男5人をあっという間に片付けてしまったのにも十分驚きを感じたが、今回のそれは、“見てはいけないものを見てしまった”というそれだった。


 「……え? な、何で……“ビー玉”が……出てきてるの……?」


 ゆきの視線の先には——————男の額の上に、不思議な色彩のビー玉が、宙に浮いている風景があった。しかも少年はそのビー玉を、手の平で包み込もうとしている。


 「……よし、後4人……と。……あ、貴方はどうしよう……」
 「っえ、わ、私っ!?」


 少年はトーンの低い声で喋りながら、ゆきの方へと振り向く。突然自分に指針が向いたせいで、ゆきは3度目の驚きを見せる。
 とろとろと自分の方角へと歩いてくる少年に、ゆきは急いで謝罪やら言い訳の言葉を機関銃のようにまくし立て始めた。


 「ご、ごめんなさい! でも有難うございますっ、私は貴方のおかげで助かりました。いや、そもそも襲われるつもりも無かったんだけどっ! でも有難うっ! だ、だからと言ってそのビー玉みたいな変なものを取り出されたくないっていうのが本心っていうかっ、というか…………だ、黙ってますから許してくださいっお願いしますっ!!」
 「……ふーん、へぇ、あぁ、そー。……じゃ、良いや。自分、面倒なの嫌だし」
 「え?」

 少年のあまりにも適当な言葉に、拍子抜けする。自分はあれだけ焦燥と絶望を覚えたというのに……と、ゆきは体中を弛緩させた。これで、ようやく自分の日常が戻ってきたのだ。
 と、ゆきが一息つく間にも、少年はてきぱきと他の4人のビー玉(らしいもの?)を回収している。そんな非日常を目の当たりにしながら、ゆきは勇気を振り絞って、少年に問いかけた。


 「あっ……あの!」
 「何ー? 自分、もう帰るんスけど。……臨也さんが、多分うるさいだろうし……面倒なんだよなあの人……人間好きの変態アンド残念なイケメンなくせに……本当面倒である、と自分は思うけど。貴方はどう思います?」
 「へ? いざ、やって? 変な名前……てか私知らない」
 「……あーうん、そうだよね、変だよね名前。そうか、知らないんだったか、そりゃどーも」


 臨也か誰だか知らないが、よく分からないことをゆきに問いつつ、少年は去っていった。その後姿をぽかんと見つめているゆき。気付けば、ゆきの口元にはよく分からない微笑が残っていた。



 「…………奪い屋、かぁ……良い人だなぁ……奪い屋さんって……」



 まだまだ夜が長い池袋のとある路地裏には—————新見ゆきという名の、ただの女子高生が残される。
 
 池袋は、今宵も愛を叫ぶ。