二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】太陽と、 16up ( No.163 )
- 日時: 2010/06/26 18:23
- 名前: 煌謎 ◆vBOFA0jTOg (ID: .mgbKoI3)
- 参照: 何も無い世界なんて好きじゃない
▼story16 「Swallowtail butterfly」
「雅焔、大丈夫?」
襖を開いて、心配そうな表情の唯をひょこりと覗かせた。
彼女の手には、熱気と言うより、プスプスと音をたてる真っ黒なお粥。
「有難う、唯」
僕の頬を一筋の冷や汗が流れる。
お妙さんの「ダークマター」以上の破壊力を持つと知られている「ダークマター2」。
今迄で幾度無く、隊士達を死に追い詰めた食料型破壊兵器である。
「今回は、雅焔向けに何時もより甘めに作ってみたの!」
正直、此の真っ黒な物体の何処が甘く作られてるのか、未だ僕は判らない。
唯が作るご飯は、どれも同じ物で、物体以外に何と表せれば良いのかすら判らない──
「お、美味しそう」
唯の優しさに応える為、瞳はにっこり笑えているのだが、口元が僅かに引きつるのが判る。
其れ程唯の料理の腕は、誰もが認める壊滅的な物だった。
「此れの何処がお粥なんでィ」
沖田さんが襖にもたれ掛かる様にして、呆れた表情で唯に視線を向ける。
湟謎との事情説明を終えたのだろう。
沖田さんの後ろには、湟謎や土方さん、近藤さんが立ってた。
「見た目で判断しちゃ駄目なんです!」
「いや、こんな物食べさせたら、別な意味で逝くに決まってんじゃねーかァァァァ!」
「此れでもお昼に間に合わせる為に、2時間もかかったんですよ!!」
「2時間!? こんな物に、2時間も時間を費やしたのか!?」
「こんな物とは酷いんじゃないですか!?」
「──もう良いですよ。僕食べますって」
終わりの見えない彼等の言い争いに僕は口を挟み、唯の手からお粥を奪う。
間近で見るとやはり凄い。見てるだけで吐き気がしてきた。
僕は未だプスプスと音をたてるお粥をレンゲで掻き混ぜ、一口分だけ掬って口に運ぶ。
「お、美味しい。凄く美味しい」
モグモグと数回口を動かした僕は、にっこりと微笑んでみせる。
正確に言うと、只口を動かしているだけで、お粥は味を確かめる前に飲み込んだ。
其のお粥が今、喉の奥につっかえていて気持ち悪い。
其の時、ふと逸らした視線の先に映ったのは、襖の小さな隙間から僅かに見える外の景色だった。
「如何したんでィ?」
一点をぼんやりと見つめていると、僕の視線に気付いて沖田さんが僕の顔を覗き込んだ。
「…………あれ」
「あれ?」
僕が外の景色に指を指すと、沖田さんも皆が目を向ける。
視線の先にあったのは、真っ黒な蝶、漆黒の闇の色にも似た、一匹の蝶。
僕は其れに、見覚えがあった。
「お、『揚羽蝶』じゃねェか」
土方さんの一言と同時に、僕の思考回路が止まる。胸に異様なざわめきを感じる。
持っていたレンゲが、僕の手からスルリと滑り落ちた。
「……雅焔?」
───僕は其の夜、夢を見た。
真っ黒な蝶が、僕を見下ろして
嘲笑う
夢を。