二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- ごめんね,でもその声は届かなくて。 ( No.11 )
- 日時: 2010/06/02 20:31
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
#03 - 抱き締めてもいいですか
「……カイト君にも裏切られちゃったね」
目の前に広がる赤黒い血だまりを見ながら、私はぽつりと呟いた。否、『呟く』よりも『吐き出す』のほうが正しいかもしれない。
ふっと込み上げてくる熱いモノに、私は思わず包丁を握っていた手を緩めてしまった。
からん、とむなしい音が静けさを取り戻した空虚な木々の合間に消えていった。
わかっていた。つぅ、と頬を伝う液体の正体なんて。
わかっていた。ぐさり、と胸に突き刺さるこの痛みの正体なんて。
わかっていた。私が、何をしてしまったのかなんて。
「あぁ」
ため息と一緒に、ぽつりと言葉が口から吐き出された。自分でも驚くほど、冷酷な声だった。
「あぁあぁ」
視界が、霞んでいく。
「あぁあぁあぁ」
涙で視界が埋もれて、なにも見えなくなる。けれどどうしてもできなくて、……ただ声を洩らすことしか、私にはできない。
哀しみを言葉にして、何も答えてくれない闇へとただ、吐き出すだけ。
「あぁあぁあぁああぁ」
ねえカイト君、本当にこれが正しかったの? カイトくん、ねえかいとくん、答えてよ、カイトクン。
もうだめ。もうやだ。何もかもが嫌になる。私の存在の半分が、消えちゃったような、どうしようもない喪失感。
「あぁあぁあぁああぁあぁああぁ」
私は、感覚が麻痺してたのかな。今更になって、哀しみが込み上げてくる。積もって積もって積もって、哀しみは凝縮されて。
押し潰され凝縮され一体化した哀しみ達が重さを増し、私の心を容赦なく押し潰そうとしてくる。
「あぁあぁあぁああぁあぁああぁ」
哀しみが、壊れちゃったみたい。哀しみは、私に罪を償わせるかのように押し寄せてくる。
哀しみは、消えない。哀しみは、止まらない。哀しみは、枯れない。
痛い。いたいよ。心がイタイ。ううん、それよりもワタシなんかにココロなんてあるのかな。こんな殺人鬼に、こころなんて。
あったらいーのにね。あってほしいな。だってわたしは、これでも人間だもの。まだ哀しむことのできる、ヒトだもの。
「あぁあぁあぁああぁあぁああぁ」
ねえカイト君、ワタシは本当にヒトなの? 教えて、カイトくん。
……震える腕を伸ばして、カイト君の頬に触れる。頬は真っ赤で、まだ乾いていない血が私の手の平にべっとりとついた。
でもそんなこと、気にしなかった。むしろ、かいとくんのモノがワタシの手に残ってくれて嬉しかった。
カイト君の顔は真っ青で、とても冷たかった。……もう、わかってるの。かいとくんは、死んでるの。
————ワタシガ、殺シタノ。
「あぁあぁあぁああぁあぁああぁ」
哀しい。哀しい。哀しい。どれだけ嘆いても、どれだけ後悔しても、どれだけ涙を流しても。
もう、カイト君は戻ってこない。それは、紛れも無い事実で。ああわたし、ばかだなあ。
なんで、カイト君を殺しちゃったんだろう。なんでなんで、カイト君まで?
カイト君に裏切られたから? 受け入れてくれると思っていたのに、悲鳴をあげて逃げ出したから?
もう、わかんない。なんにも、わかんない。わかるのは、どうしようもなくカイト君が愛シイということだけ。
「あっあっああぁ」
わたしというモノは、わかっているのに。血塗れのかいとくんを、見下ろして。
嘆いて、そして。ゆっくりと、カイト君の前に跪いて。
「……ねえ、かいとくん」
カイト君を抱き上げて、耳元で問いかけるの。
「——抱き締めても、いい?」
ねえ、かいとくん。
#04へ続く。
次で終わりまする。いやもう、ほんとにごめんなさい。本家様を台無しにしてごめんなさい。