二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

ずっと,いっしょにいてね。 ( No.15 )
日時: 2010/06/03 18:53
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

愛してる。
 (それがあなたに伝える、ワタシの最後の言の葉)



     #04 - キミにサヨナラ




 この世界は、とても広くて。一パーセントでも、私が逃げ切れる可能性があるんじゃないかって思う。
 でもそんなのはもちろん妄想。こんな私で逃げ切れたら、真面目にこの世界は終わりだろう。

 少なくとも、私はカイト君へ償わなければならない。お母さんやお父さんの命なんて、どうでもいいもの。
 ごめんね、カイト君。本当に、ごめんね。私、カイト君のこと、大好きだったよ。
 このまま、警察へ行こうかな。自首したほうがいいのかな。それとも、見つかるまでここにいる?
 カイト君に償わなければならないから。私には、『逃げる』なんて選択肢は無い。

 どれを選んだらいいんだろう。ねえ、かいとくん。教えてよ、かいとくん。

「……かいとくん」

 私の腕の中で、腹部から夥しいほどの血を流してぐったりとしているカイト君。
 顔面蒼白で、どこからどうみても生きてるなんて思えない。
 でも、私は。いや、だからこそ。

 ——カイト君が愛しくて愛しくてたまらなくて。

 ——もう一度、カイト君に私の名前を呼んでもらいたくって。

 ——ぎゅーって、カイト君に抱き締めてもらいたくて。


「カイトくんっ……ねえ、目、覚ましてよ……かいとくん」


 馬鹿みたいに涙を流しながらも、ぴくりとも動かないカイト君に向かってそう呼びかけるんだ。
 ああ、私は本当にばか。自分でカイト君を殺しておいて、生き返ってほしい、なんて願っているんだから。
 もう枯れたと思った涙も、まだまだ底を尽きなくて。呆れて笑えてしまうほど、視界をぐにゃぐにゃにして。

 何もかもが歪んで、カイト君さえもぐちゃぐちゃにしてしまって。

 そんな涙が、もううるさくて嫌で仕方なくて。涙を流しても、なにも起こらない。
 わかってるくせに。なんで涙は止まらないの? わたしって、やっぱり馬鹿。
 どうしようもないほど馬鹿で無能で、ただ嘆くことしかしらない殺人ロボット。

「——否定してよ、かいとくん……っ」

 ねえ、おねがい。わたしはほんとうに、殺人ロボットになっちゃったの?
 ねえ、おねがい。おねがいだから。ねえ、かいとくん。私はちゃんとしたヒトだって、言って。
 ロボットなんかじゃないって言ってよ。優しく私を諭してよ。痛いほどに強く抱き締めてよ。

 ——もう一度声を聞かせてよ、かいとくん。

 カイト君の声が、遠ざかっていく。温かくて優しいあの笑顔が、霞んでいく。薄れていく。散っていく。消えていく。
 声が、笑顔が、表情が、顔が、全てが、かいとくんのすべて、が。

 霞んで薄れて歪んで汚れて割れて散って砕けて舞って風にさらわれて、涙に流されて。
 ——何処へ、消えていくの?

 私を残していかないでよ。わたしも連れてってよ。ねえ、どこいくの? ワタシは、どうすればいいの?
 カイトくんの温もりが、恋しくなって。私は思わず、血で濡れたカイト君の右手に手を伸ばした。

「——」

 ぎゅうっ。めいっぱい、カイト君の手を握り締めた。
 カイト君の温もりが欲しかったから。私の温もりを、カイトクンに感じて欲しかったから。
 でも、……やっぱり。


 ——その手は、冷たくて。


 もうやだ。ねえなんで、私の涙は私からかいとくんを奪っていくの? 邪魔しないでよ。
 カイトくんの顔が見えないよ。ああもううっとおしいなぁ、涙なんてどこかへ消えちゃえばいいのに。

 このまま私が罪を償って、どうなるというんだろう。死刑? まだ未成年だし、それは無いのかな。
 もうちょっとぐらい、生きられるのかな。……ううん、違うの。
 私はカイト君のために、今すぐ罪を償わなくちゃいけない。今すぐ、そう、今すぐに。

 なんで、今すぐ? 刑務所とかいうところに入ったら、長い間閉じ込められて、……でもそれで、罪を償う。
 ……償う? 本当にそれで、償えているの? 違う。カイト君の命の重さは、そんなモノじゃない。
 それは私が、一番わかってる!

「……じゃあ、どうすればいいの」

 ぽつりと声に出して、呟く。その声はやけにむなしく響き渡って、……どうしようもなく寂しくなった。
 ああ、カイト君に会いたいな。頭を撫でてほしいな。名前を呼んでほしいな。抱き締めてほしいな。

 ——そうだ。

「——私から、会いにいけばいいんだ」

 死んだら、いいんだ。そうしたら、カイト君と同じところにいける。そうだ、それでいい。
 会えるんだ。まだ、カイト君に会えるんだ。私も死んで、……それで罪を償ったことにならないかな。
 でも、きっと……カイトくんなら。私の罪を、許してくれる。きっと、そうなんだ。だって、かいとくんだから。

 今すぐいくからね、かいとくん。

 待っててね。

 ああでも、私が死んだらこの世のかいとくんとはお別れなんだ。それもちょっと、寂しいかな。
 じゃあ、この世のかいとくんに言葉を残そう。ずっとずっと残る、純粋で綺麗で、……それでもどこか残酷な言葉を。

「……かいとくん」

 ねえ、かいとくん。

 あなたはこんなわたしを、ゆるしてくれますか?


「大好きだよ。今もこれからもずっとずっと、愛してる。かいとくんのこと——」


 いくらでもあやまります。

 あなたがゆるしてくれるまで、あやまりつづけますから。


「——愛シテマス」


 だからきっと、むこうでもいっしょにいてね。


 ねえかいとくん、……さよなら。





                #end#