二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

想いと願いと僕と紙飛行機。 ( No.22 )
日時: 2010/06/06 09:39
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

     #02 - 想いよ、届け。




 いつもと同じ、退屈な授業中。君の横顔をぼーっと眺めながら、時々黒板を確認してノートをとる。
 やっぱり、退屈で。やっぱり、話しかけることできなくて。やっぱり、想いは届かなくて。
 話さえもしてないんだから、想いが届かないのは当たり前。それなのに、どうしてこんな落胆した気持ちになるのだろう。
 何の努力もしてないくせに、好きな人と結ばれたい? 少女漫画だと、妖精とかがでてきて助けてくれるパターンだよね。
 でもそれは結局想像の話なわけで。ただのありえもしない妄想なわけで。

 ——僕はいつまで、こんな気持ちを持ち続けるんだろう。

 いっそ君のことなんて、好きにならなければよかったかなぁ。だったら、こんな気持ちなんて最初から無いんだから。
 ……でも、好きになったのは僕自身。そしてその僕は、どうしようもないほど君が好きっていうことは、自分が一番わかってる。

「たいくつ……」

 なんだか頭がぐちゃぐちゃになってこんがらがって痛くなって——僕は思わず、そう吐き出した。
 授業中だから、もちろん小さな声でだけど。ああ、窓際の席で良かったなぁ。
 外に声が抜けていくだろうから、周囲にはあんまり声は聞こえないだろうし。……そうだったらいいんだけど。
 窓から時折入ってくる、涼しい風が気持ち良い。教科書とかノートが勝手にめくれる時があるから、ちょっとうっとおしいけど。

 そこでふと、思い出す。そういえば今日、日記——君への想いがつまった秘密のノート——を入れてきたような気が……。
 日記は、時々持ってくる。窓際だし一番後ろの席だから、他人に見られる心配は無い。
 机の中を探ってみると、やっぱりあった。そのまま出そうとして、僕は動きを止めた。
 先生に見られていないか確認しなきゃ。見つかったらなんだか色々と大変そうだし。
 
 ——先生は、黒板になにかを書いている最中だった。

 僕は日記を机の中から引っ張り出すと、ぱらぱらとページをめくっていく。
 そして昨日、完璧に真っ黒になってしまった一ページを見つけた。昨日と同じ、これが僕の探していたページ。
 綴られた文字を、上から順に追っていく。小さくて雑な文字だけど、自分の字だからか一応なんとか読める。

『僕は、レン君のことが好きなんだろうね』

 一番最初には、そう書かれていた。『好き』——今になっては、はっきりとしたこの感情。
 その感情が、僕の中でうずくのがわかった。ああ僕は、君に伝えたいんだ。

 この気持ちを。この感情を。君への想いを。僕の心を。

 でも僕には、そんなことできなくて。僕はやっぱり、臆病で——。
 瞳が潤んでくるのを感じながら、僕は次の文字を見ていく。

『いつかこの感情を、レン君に伝えたいな』

 ——もう、やだ。もういやだよ。僕はこんなに臆病なの。弱くてちっぽけで怖がりなただの弱い虫なの!
 伝えることなんてできない。どうすれば伝えられるかなんてわからない。考えることもできない。
 レン君のほうに目を向けると、レン君はどこか退屈した表情で、それでもちゃんと授業を受けていた。

 ——僕は、できるの?

 ——レン君に、想いを伝えることが、できるの?

 頬を生温かいモノはすうっと伝うのがわかって、僕は顔を伏せた。


**


 今日は日番だから、教室のドアを閉めなければいけない。
 みんなが出て行った後の、静かな教室。その中に、僕は独りでいた。
 友達には先に部活に行ってて、と伝えてあるから僕を探しにくることは無いだろう。
 僕は重い鞄を背負い、片手に鍵を握り締めて自分の席に座っていた。
 もやもやした気持ちが晴れなくて、どうしても部活に行く気になれなくて。

 はぁ、とため息が口からこぼれ出る。僕は特に意味も無しに、鞄を下ろして日記を取り出した。
 真っ黒なページを見つけ、そのページに綴られた文字を一文字一文字眺めていく。

 ——そのノートに綴られる、僕の気持ちが。

 ——なんだか重い石となって、僕に乗りかかってくるような気がして。

 気付けば僕は、びりびりとその一ページをノートから切り離していた。
 そして、そのページで紙飛行機を折っていく。出来上がった紙飛行機は、君への想いが積もりすぎて真っ黒だった。
 僕の想いの積もった、紙飛行機。僕は想いを伝えることなんてできやしない、ただの臆病で。

 ——だけどこの紙飛行機なら、君に想いを伝えてくれるのかな。

 ふとそんな考えが頭に浮かんで——気付けば僕は、閉めた窓を開け放っていた。
 紙飛行機を持った手を、上げる。そして何度か勢いをつけるように揺らして、飛ばす。


「——想いよ、届け」


 僕の想いが、君に伝わりますように。

 ありえるはずのないことなのに、僕は思わずそう願っていた。

 紙飛行機は、風にさらわれすぐに見えなくなった。





                #03へ続く*