二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

大好き,有難う。 ( No.42 )
日時: 2010/06/10 21:38
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

僕と君の大好き。
 (まるで、大好きの二乗。)


 
         #05 - 大好きの二乗



 なんで、僕はこんなにも弱いんだろう。

 なんで、なんで?

 ねえ、さっき誓ったよね?

 強くて頑丈な形を作るって、誓ったよね?


——なんで僕の心は、こんなにも脆いの?——


 ドアから飛び込んできたその声は。紛れもない、レン君の声で。
 ちゃんとレン君に想いを伝えたいって思った、ばかりなのに。ちゃんと作り直したはずの僕の心は、どこへ行ってしまったの?

 ねえ、ねえ。

「……初音?」

 ……なんで? なんでここに、レン君がいるの? なんでレン君が保健室に来て、僕の名前を呼ぶの?
 どうして。レン君はさっき教室で、嫌な想いをしたはずなのに。なのになんで、私のところへ?
 ああ、だめ。止まっていたはずの涙が、また込み上げてくる。なんで僕は、こんなに弱いの?
 意味がわからない。……そんなことをいって、僕は逃げたいだけ。

「……っ……」

 ここにいるよ、って言えなくて。レン君と会って、レン君になにを言われるかが怖くて。
 こんなことじゃないけないって、わかってるのに。それでもまだ、僕は逃げ続けるの?


「——初音」


 閉めていたカーテンが、開く。それはあまりにも一瞬の出来事で、僕は心の準備なんてできてなくて。
 どうすればいいかわからなくて、なんだか涙が止まらなくて。無意識にシーツを握り締めていて。
 思わず、俯いて。もうなんにも、できなくて。ただただ、泣くことしかできなくて。

 ——怖い、

 ——怖いよ。

 涙で視界がぐにゃぐにゃと歪んでいく。もう、顔上げれないよ。こんな僕を、レン君に見てほしくない。
 ねえ、どうしたらいいの? ねえ、僕は——


 ——ぎゅう、って。


 ふと、僕の体に沁みてくる体温。あったかい。とても優しくて、あったかくて。
 僕の体をすっぽりと包み込んで、力強くてでも優しくて繊細で。
 とにかくとても、心地良くて。体中が、あったまっていく。幸福感が、僕を満たしていく。

「……ごめんな、初音」

 その声を聞いて、僕はレン君に抱き締められてるんだって、ようやく理解した。
 瞬間、恥ずかしくて怖くてびっくりしてでも嬉しくって、……僕は何も言えなかった。
 顔が火照っていくのをしっかりと感じながら、僕は顔を上げた。涙は、止まっていた。

 なんだか、驚くほどに冷静だった。レン君にこんなことをされたら、死んじゃいそうだったのに。
 でも、レン君のあたたかさは。僕に優しさと幸せを伝えてくれて、……とても落ち着けて。
 ああ、やっぱりレン君ってあったかいんだなぁ——改めて、そう感じた瞬間。

「……俺も、初音のこと——」

 レン君のその言葉を聞いて、急に体全体が心臓になったかのようにばくばくと喚きだした。
 上げようとしていた顔を、すぐに伏せた。夢を見ているような、ありえないほどのあったかさ。


「————好きだ」


 そして告げられたレン君の一言に、また涙が溢れ出してきて。
 ……信じられない。ねえ、本当なの? 信じても、いいよね? レン君も、僕のことが好き。
 僕も、レン君のことが好きで。……それってつまり、『両想い』で、いいんだよね——?

 今度の涙は、とても優しい涙でした。今までと違う、とても幸せに満たされたあったかい涙でした。
 哀しくて泣いたんじゃない。きっと、嬉し泣きなんだろうと思います。

「れん、……くんっ……!」

 涙を流してることなんて、どうでも良かった。レン君の顔が見たくて、レン君を抱き締め返したくて。
 笑顔なのかなんて、関係なくて。ただただ僕は、顔を上げていた。
 すぐ傍に、レン君の顔。頬はちょっと紅くなっていて、にっこりと笑っていて。

 ——もうだめ。


「レン君、……大好き」


 ——大好きの気持ちが、止まらない。


 顔が綻んでいくのがわかる。きっと今の僕は、とても幸せな笑顔を浮かべているんだろうなぁ。
 ねえレン君、信じてもいいんだよね? これからも僕は、レン君ことが好きでいいんだよね?

 僕達は、僕とレン君は。『結ばれた』、それでいいの?


「——大好き」


 どっちが、その言葉を発したんだろう。自分でも、わからなくなっていて。
 もしかすると、僕とレン君でハモったのかもしれない。だったら、もう信じるしかないよね?

 唇に、ぬくもり。顔が熱くなっていくのがわかったけれど、とにかく嬉しくて。
 僕は、レン君のことが好き。大好き。その気持ちに、嘘はない。
 レン君も、僕のことが好き。ねえ、それでいいよね?
 僕の想いは、君に伝わったんだ——。


 ——有難う、レン君。


 ——僕にいっぱい、教えてくれて。


 ——あったかさとか、優しさとか、幸せとか教えてくれて。


 ——ねえ、レン君。


 ——これからも、よろしくね。





                  *end*