二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

なんて愚かな,人の子でしょう。 ( No.52 )
日時: 2010/06/14 21:57
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

ねえレン,愛してるよ。
 俺のほうこそ愛してるさ,リン。


      ‡ 言い合い「愛」「哀」 ‡



「大好き」

 彼女がふんわりと微笑みながら言うと、彼は彼女を抱き締めました。

「俺もだよ」

 そして彼は彼女にそっと口付けました。とても優しく、まるでガラスに触るかのように。
 彼女はいっそう顔を綻ばせてから、彼をもっときつく抱き締めました。
 彼はそんな彼女を愛しそうに眺めて、彼女の頬をすうっと指で撫でるようになぞりました。

「ずっと一緒だよね」
「当たり前だろ、リン」

 彼女の問いかけに答えると、彼は彼女にもう一度口付けました。
 彼と彼女は、一生離れられない鎖で結ばれています。


 ——それが,贖罪。

 ——それが,唯一の裁き。

 ——ねえレン,わかってる?

 ——永遠に消えることは無いのよ?


 ——あなたが犯した,大罪はね。



    彼と彼女は、双子でした。

    双子の間に生まれた、そのアイ。

    アイしてはいけないと、わかっているけれど。

        (もう、とめられないの)

  †


 彼女の鏡の中の姿である彼が具現化——つまり、鏡から這い出してきたのはいつだったでしょうか。
 鏡の中の存在だけであれば、よかったのに。けれど彼は、愚かにも自分と言う一つの存在を求めてしまったのです。

 彼女の命は、もう永くありません。

 彼が生まれるまでは、もっと永く生きられるはずでした。
 けれど彼が生まれたことにより、彼に自らの命を持っていかれたのです。
 しかし彼が生まれることを、彼女は拒んではいませんでした。

      存在を求めたことが,彼の罪。
 
         (拒まなかったことが,彼女の罪。)

 
 彼の命も、永くはありません。彼女と同じ時間に、息絶えます。
 それでも彼女は、嘆くことも後悔することも彼を責めることもしませんでした。
 理由は、ひとつ。

 『彼が死んだ弟』だったからでした。

 彼女は、愛していた弟と一緒にタヒねるのなら本望とでも言わんばかりに、むしろ喜んでいるのでした。
 それだけでも、十分でした。けれども彼女の欲は、底を尽きなかったのです。

 彼女は、求めました。

 弟——いえ、『彼』からの愛を。

 自らの寿命を奪ったことを足枷にし、彼から自由を奪い去りました。彼もそれを、拒みませんでした。
 わかっていたのです。彼も、わかっていたのです。彼女——姉が早くに死ぬのは、自分の所為だということを。
 だからこそ、拒むことができなかったのです。


          (あぁなんて愚かな,)



                            (羊の子。)


 
「愛してる」

 彼は今日も、紡ぎ続けます。

「大好き」

 彼女もずっと、紡ぎ続けるのです。


「ずっとずっと——」


 『愛』の言葉を。


「——一緒だよ」


 『哀』の言葉を。


「絶対に、離れないでね」


 お互いを縛り付ける鎖の中で、心地良く。


「あたりまえだろ」





        (あなたの罪,)




                 (わたしの罪。)
 






                                                 end.