二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- ごめんなさい,少女の声は闇に喰われる。 ( No.8 )
- 日時: 2010/06/01 18:46
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
#02 - ごめんなさい、
少し、不気味だった。真っ暗なおかげで辺りに余計な不気味さは広がっていない。
けれど、やっぱり周囲が木々でいっぱいということと、時折吹く風で揺さぶられる木々の音が不気味。
でも、私は大丈夫。私には、包丁があるから。あの憎い憎いお母さんとお父さんを一瞬で壊れた人形してしまった、凶器が。
「……カイトくん」
不気味さも加わって、なんだか寂しくなってきて——思わず私は、カイト君の名を呼んだ。
その時、どこか遠くで砂を蹴るような荒々しい誰かがかけてくる音と、乱れた吐息が私の耳をついた。
……カイト君だ。やっぱり、来てくれたんだね。有難う、カイト君。これからも、ずっと一緒にいてくれるかなぁ?
ちらちらと光が向こうのほうで蠢いている。多分、カイト君が懐中電灯を持ってきてくれたんだろう。
本当に、頼りになる。カイト君と一緒にいれば、なんでも乗り越えていけそうな気がする。
……ううん、『気がする』じゃない。乗り越えて『いける』んだ。
「かいとくん……っ!」
にやけていくように顔が綻ぶのを感じながら、大きく声を張り上げた。
「みく!」と私を呼ぶ声が聞こえる。私はここ、ここにいるよ、カイト君。
一瞬、目の前が黄色を帯びた白色が埋め尽くした。それは恐らくライトのようで、目に軽く痛みが走る。
「……ミク! 大丈夫!?」
しかしそれは本当に一瞬で、カイト君のそんな声が聞こえてくると同時にライトは私の足元へと下げられた。
ああカイト君、会いたかったよカイト君。私のその想いが言葉となって口から吐き出される前に——
「……ッ!?」
カイト君の息を呑む音が、静かに響きわたった。……どうしたのかな。なんで、息なんて呑むの?
私の格好がいけなかったのかな。でもカイト君が赤色を嫌いだなんて聞いたことない。
もしかして、私の顔も真っ赤だったり……? 家を出る前に、顔ぐらい洗ってくれば良かったなぁ。
今更後悔しても、遅いんだけれど。
「カイト君、ごめんね。こんな時間に来てもらって……本当に、有難う」
だから恐らく戸惑っているんだろうカイト君に安心してもらうために、私はにっこりと微笑んでそう言った。
よく見るとカイト君は寝巻き姿のようだった。ぶかぶかの長袖Tシャツに上着を羽織ってきている。
下はジャージ。ああ本当にカイト君って、私のことを想ってくれてるんだね。
「み、く……そこにあるモノって……なに?」
ふるふると震える指先で、カイト君は私の右手にちょっとだけ触れてるソレを指さした。
私はまだ濡れてるソレを掴むのにはちょっと躊躇したけど、もうどうでもいいやって思ってソレを掴みあげた。
そしてカイト君に向かって、突き出す。別に刺そうとか思ったわけではない。
カイト君に、これは『包丁だよ』って伝えたかっただけ。……なのになんで、カイト君の小さな悲鳴が聞こえたのかな。
「……ミク、お母さんと喧嘩したって——ほんと?」
どうしてだろう。カイト君の声は、酷く震えていた。どうしようか。本当のこと、言ってしまおうか。
……まぁ、別にいいよね。どうせすぐ、バレることだろうし。
「ごめんね、カイト君。ミク、嘘ついたの。……お母さんとお父さんね、殺してきたの」
カイト君を怖がらせたくなかったから。どうして怖がっているのか、理由なんてわからなかったけど。
カイト君にもっと近づいてほしかったから。どうして少しずつ後ろにさがっているのか、理由なんて知らないけど。
カイト君には笑顔が似合うから。どうしてカイト君が、引き攣った恐怖に塗れた顔をしてるのか、私にはわからないけど。
——私はにっこりと、笑顔でカイト君にそう言った。
カイト君の悲鳴が林の中に木霊するのに、何秒もいらなかった。
**
「ごめんなさい」
誰か聞いているわけでもないのに、私は呟く。
「ごめんなさい、」
今更届くはずないとわかっているのに、私はひたすら言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、」
紡ぎ、続ける。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
——ねえ、どうしてこうなっちゃったの?
——ねえ、誰か教えてよ。
——ねえ、カイト君。
#03へ続く。
ミクごめん。カイトごめん。いやほんとにごめん。
*yuki*さんコメント有難うございます^^
今から風呂いってくるので、上がってきたらコメ返します!