二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【ボーカロイド】×【イナズマイレブン】 ( No.9 )
日時: 2010/06/12 08:34
名前: *yuki* ◆R61No/hCwo (ID: yjS9W/Zh)

*〜*〜一番目〜*〜*  


「ん…………」

眼帯をつけた男の子——、佐久間次郎は、目が覚めると森の中にいました。
薄暗い森です。

周りを慎重に見回しながら佐久間は起き上がると、
足元になにか転がっていることに気がつきました。

それは、サッカーボールでした。

サッカーが大好きな佐久間は、思わずボールをギュッと抱きかかえました。

暗い不気味な森の中。
そうしていれば、少しは安心できると思ったのでしょう。

すると。

「!!誰だ、お前!」

いきなり後ろに気配を感じた佐久間は、バッと飛びのきました。

そこにいたのは、黒フードを足から頭まですっぽりとかぶった人物でした。

「……ワタシが誰かですか?
ワタシは、“夢”。夢です。」

にやにやと笑う、黒フード……いや、“夢”。
そのくぐもった声は、男か女かも判別できないものでした。

(こいつ、生き物、なのか……?
!な、なんだよそれ!)

生きているかも、死んでいるかも判別できない。
そんなことを一瞬考えた佐久間は、すぐに思考を変え、首をブンブンと振りました。

「アナタを、アリスとして。この不思議の国にご招待いたしました。」

佐久間のことはお構いなしのように、ゆっくりと喋る夢。

ゆっくりと、ゆっくりと。
なにかに染み込んでいくような声。

佐久間は自然に、後ずさりしていました。

「い……意味わかんねえよ、アリスってなんだよ!ふざけんじゃねえよ!!」

激しい口調。
でも、その手からにじみでる汗が、佐久間の“怯え”を表していて。
揺れる瞳が、“恐怖”を表していました。

「……ここは、いいところですヨ。
不思議の国は、とてもとてもイイトコロ。
でも、一つだけ足りないものがあります。
それが、アリスです。」

佐久間が後ずさりしたのを見て、じりじりと近づく夢。

「し、知るかよそんなこと!
早く元の世界に帰せ!!」

そう佐久間が必死の思いで叫ぶと、夢はにやりと笑いました。

「本当に?帰りたいのですか?

……ここは、アナタのネガイが叶えられる場所なのに。」

「!!」

気がつくと、いつのまにか佐久間の耳元に、そっと夢が囁いていました。

近づいてくる黒い腕を、思いきり払いのける佐久間。

「願いなんて、そんなのっ、……」

「無いと言うのですか?そんなこと、あるワケないでしょう。
……ほら、例えば、『帝国を強くしたい』とか……」

夢の言葉に、ハッとしたように顔をあげる佐久間。
けれど、またうつむいてしまいました。

それを見かねたのか、夢は喋り続けます。

「いいですか、もう一回言いますヨ。
ここは、アナタの願いが叶うトコロ。
なんだって、なあんだって……」

ピクン、と佐久間の肩が反応しました。

「けれど、そのためには。
そのサッカーボールで、帝国の力を示さなきゃならない。
そうすれば、全てが自由。
アナタのクニになる。」

夢の言葉は聞こえているのでしょうか。
佐久間は黙ったままです。
しかし、喉が鳴る音が、静かな森に響きわたりました。

そしてまた起きた静寂を、打ち破る夢。

「でも、守って欲しいこと。ひとつアリマス。
それは、自分がアリスだという自覚を、もつことデス。
このことを約束してくれるのならば、…………………」

ゴーーーッ……と生温かい風が吹き、夢の姿は消えてしまいました。

ポトン。

草の上に転がるサッカーボール。

それを見ながら、佐久間はぶつぶつとなにかを言っていました。

「みんなのため。帝国のため。
帝国は、強いんだ……だから……」

軽く——。そう、軽く蹴られたボール。

しかし、そのボールの軌道のあとには、
地面にくずれ落ちた木の断片が、残っているだけでした。