二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【VOCALOID】×【イナズマイレブン】 ( No.91 )
日時: 2010/06/18 21:05
名前: *yuki* ◆R61No/hCwo (ID: yjS9W/Zh)
参照: 勉強なんてくそったれ☆

「どうぞ、お通りください。」

年老いた執事に案内され、王子の部屋に入る士朗たち。

その表情は、好奇心であふれていました。

「では、私は廊下にいますので……」

執事が、豪華なドアを丁寧に閉めると、
二人は、鎖が解けたかのように、わーっと広い部屋中を走り回りました。

「すごい、すごーい!何もかも豪華!」

「こんな生活、羨ましいな!王子って憧れるなー。」

大はしゃぎする二人。

けれど、王子が寝ているベッドを見ると、アツヤの足はピタッと止まって。

「この王子って……。
おい、兄貴!」

アツヤは、さっきまでとは違う、少し堅い表情で、手招きしました。

そして士朗は不思議そうにベッドに行き、王子の顔を見ると。

「……あれ、なんか……見たこと、ある、気がするよ……。」

士朗は痛そうに頭をおさえました。
かすかな記憶が、いきなり、爆発しようとしている……そんな感じなのです。

「そういえば、王子の名前、風丸っていうんだっけ……
聞いたこと、アル……」

士朗はふらりと倒れそうになり、アツヤが慌てて支えました。

すると。

『君が忘れたわけじゃない。』

『彼のソンザイが、消えてしまったんだ。』

『アリスになれなかったカラさ。』

「?!!」

様々な、男と、女の声。大人と、子供の声。
不協和音が、二人の脳内に響きわたります。

「……やだ、やだ、こんなの不思議の国じゃない!
不思議の国はもっと楽しいところなんだ!」

痛さに耐えかね、
士朗は眼をあけて。

「風丸なんて、知らないよ!!」



そう叫んだ瞬間————、
嫌な声は一瞬で消え去り、部屋は静寂に包まれました。


けれど、王子の苦しそうな顔は、ますます歪んでしまい。
それでも、ゆっくりと喋りはじめました。

「……不治の、病……
それは、一生治らない。
そして、俺は、魂が……とりついて、いるから、一生死ね、ないんだ。」

すぐに消えてしまいそうな、か細い声をあげながら、
王子……いいえ、風丸は士朗をじっと見ます。

「でも、今、いなくなった。魂は……、いなく、なった。
だから、……、もうすぐ、俺は死ぬ。」

士朗は——、なにか不安な気持ちに襲われました。

自分が言った一言で。
目の前の少年の運命を、大きく変えてしまうのではないかと。

そんな、不安に。

「吹雪……ゴメン、俺、帰れなかった。
円堂に、会いたかったのにさ……。
ゴメン……。」

苦しそうに、瞬きをする風丸。
でも、その紅い瞳は、士朗をずっととらえたままでした。

「……お前たちは、ここから早く抜け出して……
アリスになんて、なれはしないんだ。
あんなのは、ただの夢物語なんだから……」

風丸が、必死に士朗とつなごうとしていた手が、だらん、と落ちました。

「ま、待って……知らないなんて、嘘だから……ねえ、」

士朗は風丸の手を、ギュッと握る。

ことは、不可能でした。

その行動よりも前に、風丸の姿は、光とともに消えていたからです。

『ゴメンな』

その最期の言葉が、ずっと士朗の頭の中を廻ります。


「…………っ!!」

士朗は、ここに来てから初めての、“涙”を眼に浮かべて、
歯をくいしばりました。

そして、ベッドに手をふれた瞬間————。


なにもかもが、崩れ落ちていきました。