二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

愛しい世界の壊し方 * 歪んだ思慮の壊し方 ( No.101 )
日時: 2010/07/22 21:11
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
参照: http://2.syawa.net/nicotter/watch/sm11460509

「ねえウルビダ、」
「……なんだ?」

 まるで犬のような人懐っこい笑みを浮かべて、いつも私に話しかけてくるグラン。
 といっても私はコイツのことが嫌いなわけではなく、世間で俗に“カップル”といわれる関係に落ち着いていた。
 グランと一緒にいると楽しいし、辛い練習のことだって忘れられるし、なんだか元気をもらえる。

 それでも正直、私がグランのことを恋愛対象としてみていたのか、定かではない。
 いつだっけ。グランに、言われたことがある。

『なんで上手くできないんだ、ウルビダ! 父さんの足を引っ張る気か!?』

 ああ、多分ジェネシスに入りたての頃だ。恐らくグランはその時の勢いだけで言ってしまったのだろうと思う。
 だが、何故だがその言葉はずっと私の中にこびり付いていた。グランの顔を見るたび、思い出してしまうその言葉。
 苦しかった。今はもうそんなことを言われてないとはいえ、……一度でもそうやってグランに否定されたことがあるという事実が。
 そしてそれを忘れられずに、ずっと引きずっているということが。

 エイリア学園に入った時から仲良くしていたレーゼ——仲良くというよりは、なんだか私が姉のような存在になっていたのだが——にそのことを言うと、『グラン様のこと、好きなんだね』といわれた。
 けれど私は、好きならグランよりレーゼのほうが好きだと思ったし——レーゼのその言葉に、同意することができなかった。

 何故だろう。あの時の言葉を、引きずっているからだろうか。ああ、いつまで引きずっているんだろう。
 馬鹿みたいだ。ジェネシス計画が失敗して私達は自由になったのだから、もう忘れてしまえばいいことなのに。
 何故、忘れられない。グランの顔を見るたびに泣きたくなって、けれどグランの笑顔を見て思わず笑ってしまって。

 ぐちゃぐちゃだった。何もかもが、歪んでいた。

 何故だろう。何故私は、こんな人間なのだろう。もしあの言葉が無ければ、グラン——否、ヒロトをもっと愛せたのだろうか。
 愛せ、た? 愛せる、のか? こんな私に、前のことをずっと引きずってる私に、人を愛すことなんてできるのか?
 
 ああ、もう意味がわからない。

 どうすれば、このごちゃごちゃした想いから逃れることができる? 

 どうすれば。どうすれば。いっそ、ヒロトなんかともう逢えなくなってしまえればいいのに。

 そういえば、言ったことがあったっけ。ヒロトの言われたあの言葉がショックで仕方なくて、思わず言ってしまったあの言葉。
 勢いに任せて、ただ溢れそうなうるさい想いをひたすらに押さえ込みながら、自重気味に笑っていったあの言葉。


『殺したって、いいよね?』


 そうだ。もう、殺したっていいじゃないか。


『君が嫌う、私なんてさ』


 ヒロトに否定された、こんな馬鹿な私なんて。





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