二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

闇の中で談笑 / その果て ( No.111 )
日時: 2010/08/12 20:31
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

「ねえ、帰りの電車はどこにあるのかな?」

 ぽつり、と虚ろげに宙に視線を彷徨わせていたクララがふとそう言った。え? と思わずヒートは聞き返し、どこか遠くを見据えているようなクララの大人びた表情を一瞥する。
 一瞬後彼女のその言葉の意味をぼんやりとだが理解し、「そうだね」と呟いて言葉を続ける。

「どこにもないのかもしれないよ」

 いつも通りの儚げな笑顔を浮かべて言い放つヒートを見て、クララも悲しげな微笑を浮かべる。
 
「きっと、ないわ」

 自嘲気味に微笑んで囁かれたその言葉に呼応するように、クララのユニフォームの胸元から除く毒々しい紫色をした石が、幻想的なまるで時空を歪めるかのような輝きを放つ。
 ぎゅ、とその石をユニフォームの上から握り締めて、クララは呟いた。

「でも、貴方はずっと私と一緒にいてくれるよね?」

 俯きかけていた顔をしっかりと上げ、ヒートの目を見つめながら。

「ねえ、ヒート」

 当たり前だろ、相変わらずの綺麗な笑顔を見せる彼をクララは思わず抱き締めた。

 
                                    - 闇の中で談笑



「大好きなの、」

 ねえ、と言葉を続けてにっこりとクララは微笑んだ。引き攣った薄い笑みを硬直させてそんなクララをまるで目の前で人が殺されたかのような表情で、レアンが自らの体が小刻みに震えるのを感じながら見据える。
 そうね、と呟いたつもりだったが喉の骨の間を圧迫するような形で喉を握り締められているためそれは言葉にならず、喉がごわりと盛り上がった不快な感触だけが小さな音になって放たれた。

「だからね、苛々するのよ」

 貴女みたいな人を見ているとね。そう冷ややかな笑顔で言い放って、クララは指に力を込めた。
 ぐっ、とレアンの喉を圧迫する力に拍車が掛かり、ひゅう、とか細い息がレアンの口からこぼれ出た。
 嫌な汗が背中を伝い落ち、一瞬びくりと大きくレアンの体が痙攣する。
 苦痛を露にした表情でしかしレアンが必死に意識を保ちながら、クララを睨みつける。

「……ねえ、なんで貴女なのよ?」

 どうして、さらに紡がれたクララの言葉にレアンの口元になんの無理もない、ただ嘲笑うために生まれた笑みがはっきりと浮かび上がった。

「レアン、何故貴女がガゼル様に認められるのッ!?」

 当たり前でしょう、あんたがあたしより劣っているからよ。
 蔑みだけが込められた瞳でレアンが嘲笑うかのようにクララの瞳を見つめ——

 だんっ、と鈍い音を立ててレアンの体が冷たいフローリングの床へと落ちた。


                                    - その果て