二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- こんな汚れたさよならなんて、 ( No.115 )
- 日時: 2010/08/18 14:30
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
♭こんな汚れたさよならなんて、
「世界……?」
唐突に鬼道さんから切り出された言葉に、思わずうろたえてしまう。鬼道さんは曖昧に頷いて、申し訳なさそうな顔をした。
真・帝国学園の出来事から何ヶ月か経つが、俺の脚はまだ完全には回復していない。
珍しく二日続けて見舞いにやってきた鬼道さんは、その事を俺に伝えるために来たのだろうか。
「フットボールフロンティアインターナショナル。通称FFIの、つまり世界への大会の選手に選ばれたんだ」
源田は、二週間ほど前に退院していた。けれどほぼ毎日、サッカー部の皆と一緒に見舞いに来てくれる。
それは部活後で面会時間ぎりぎりだが、鬼道さんもいつもは雷門での練習があるので近い時間に来る。
だけど今日は、恐らく部活が始まるであろうとても早い時間に鬼道さんはやってきていた。
源田達に、聞かれたくなかったのだろうか。
「それで、もうすぐ予選が始まるんだが——佐久間、多分お前とはもうしばらくの間、会えないだろう」
え、とはっきりと鬼道さんの言葉を理解しきっていない俺は、思わず小さく声を洩らしていた。
つまり、鬼道さんは。FFIの選手に選ばれ、これから予選。きっと、鬼道さんは——日本代表メンバーは勝ち抜くだろうから、そしたら世界へ行くわけだ。
勝ち抜くなんて決まったことではないけれど、強化人間さえも倒したんだ。
そんなメンバーにさらに強い奴等が加われば、きっと勝ち抜けるに違いない。
ということは、もう鬼道さんには当分の間会えないということだ。監督の指示やら練習やらで、見舞いに来る時間などきっと無いだろう。
「……そう、なんですか」
正直言ってしまうと、泣きたい気分だった。俺の脚は、きっとまだまだ治らない。
鬼道さんと一緒にサッカーをするという、そんな俺の願いは叶わなかったわけだ。
否、いつかは叶うだろう。世界大会と言ったって、ずっと会えないわけではない。
けれど、それまでは会えないのだ。恐らく、一ヶ月以上。どれぐらいかは予測すらできないが、きっときっと、それこそ俺がサッカーできるようになった時ぐらいには帰ってきてくれるだろう。
それまで。それまで、は? 鬼道さんとまた一緒にサッカーをしたいと、想い続けていた。
『佐久間、佐久間ッ!!』
俺は、なんて馬鹿なんだろう。自分でエイリア石に手を出しておいて、こんな高い望みを持って。
『やめろ、佐久間ッ!』
禁断の技に、手を出して。鬼道さんを見下して、たくさん傷つけて。源田を、巻き込んで。
『佐久間——……ッ』
挙句、サッカーができなくなるほど自分を壊して、鬼道さんに心配かけて。
しかも結局、負けて。ああ、俺はどうすればいいのだろう。俺なんかが、皆といていいのだろうか。
こんな俺さえも受けいれてくれた、帝国学園のみんな。鬼道さんに、雷門イレブン。
俺は、いていいのだろうか。
「きっと、来るから」
鬼道さんの謝罪の声は、ぼんやりと聞こえていた。思慮に、というより自己嫌悪に囚われてはっきりとは聞こえていないけど、少しでも鬼道さんが謝っている声を聞くのは嫌だった。
悪いのは、俺なのだ。どうして鬼道さんが謝るのだろう。
そしてその鬼道さんは今、馬鹿でちっぽけな俺に微笑んで言ってくれている。
「FFIが終わったら、すぐに来るから」
だからそれまでに、脚治しておけよ。やっぱり鬼道さんは、いつもの鬼道さんだった。
やんわりと微笑んで、そう言った。だけど俺は、馬鹿な俺は、そんな鬼道さんと一緒にいたいとは思えなかった。
「……いってください」
馬鹿な俺は、鬼道さんと一緒にサッカーする権利なんて無い。
俺は、もうサッカーなんてやめてしまったほうがいいのかもしれない。
「早く、行ってください。本当は俺と話している時間なんて、無いんでしょう?」
自分でもぎこちないとわかる無理な笑顔を浮かべて、俺は鬼道さんに言った。
とにかく独りになりたかった。思いっきり泣きたかった。どうして俺は、こんなに愚かなんだろう。
「……すまない。またな、佐久間」
俺の言ったことが図星だったのか、鬼道さんは再度謝って俺に頭を下げた。
どうして、どうして。
どうして鬼道さんは、馬鹿でどうしようもない俺に謝るのだろう。
何故、何故。
何故鬼道さんが、俺なんかの存在のために頭を下げる必要があるのだろう。
——ねえ、鬼道さん。
鬼道さんが病室から出て行くのを、俺は何も言わずただぎこちない笑顔で見送っていた。
(鬼道さん、あなたは今どこにいるんですか?)
♭こんな汚れたさよならなんて、