二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 誰も答えてくれないの、誰も歌ってくれないの ( No.124 )
- 日時: 2010/08/18 21:47
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
(誰も答えてくれないの、誰も歌ってくれないの)
「ごめんね、ねえ、ねえ、」
蒼白とした顔でぐったりとしているヒートの頬に手を当てて、レアンは何かに憑かれたように一心不乱に言葉を囁き続ける。
泣き腫らした赤く充血した目からは、また次々と涙が溢れ出る。嗚咽が再度洩れ、視界がぐしゃぐしゃになっていく。
そんなこと関係ないとでもいうように、レアンはヒートの名前を呼ぶ。呼び、続ける。
傍らには、真っ赤に染まった包丁が無雑作に投げ出された。じわじわと止まることなく染み出してくるヒートの胸部からの血に、レアンは自らのお気に入りのハンカチを当てていた。
しかしそのハンカチもすっかり血を吸ってもはや使い物にならない状態だった。だが当てているだけでも気休めになるのだろうか、レアンは放心状態で半ば押し付ける形で当て続ける。
ごめんね、ごめんね。
発狂してしまいそうなほど儚く休むことなく囁かれ続ける言葉は、果たして彼の耳に届いているのだろうか。
生気を失くしてぐったりとしている様子だけみれば、死んでいると仮定してもなんら問題は無いが、確かに彼の心臓の周辺にあたる部分はかすかに上下を繰り返してた。
意識があるのか、あったとしても襲い来る灼熱する痛みと確実に血が出て行っているとわかる不愉快な官職と鳥肌が立ちまるで貧血にあった時のような眩暈にも見た感覚がまるごと襲い掛かってきて、恐らくはっきりとした意識を保ててはいないだろう。
「ひーと、ひーと」
寂しかったの。寂しかっただけなの。ごめんなさい、ヒート、ヒート。
次いで呟き、レアンはハンカチを持つ手に力を込めた。絞り出された血が、ぽたぽたと所々に赤い斑点のある白い床に赤黒い穴を穿った。ぴちゃ、と赤い液体が小さく飛び跳ねる。
先程までレアンの中で暴れまわっていた憎悪と愛憎が交じり合った激情は、すっかり静まり返っていた。
けれど、静まった代償は、目の前で横たわる赤に塗れた彼なのだ。
「なんであたしじゃないの、なんでクララなの、って」
寂しかっただけなの。
次いで放たれた言葉は、酷く震えていて弱々しいモノだった。吹けば飛んでしまいそうな、枯れた花のように。
認めて欲しかった。ただ、それだけだった。ヒートと付き合いはじめたクララに自らが狂気に染まってしまうほど嫉妬した、あの時のことをぼんやりと想い返す。
『私ね、ヒートと付き合うことになったの』
『……え、』
『私のこと、好きだよって言ってくれたの』
嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに語るやっぱり女の子なんだなぁ、と改めて思い知らされるクララの様子にレアンが覚えたのは、紛れもない『嫉妬』と『憎悪』だった。
クララはレアンがヒートのことを好きだということをしらない。だからこそクララはあのように自らの幸せを語ったのだったが、どうしてもレアンはクララに見下されているような感じが払拭できなかった。
積もりいく嫉妬と憎悪は、愛憎へと姿を変えてヒートへと向けられた。
「嫌だったの、ヒートがクララに触れること自体が」
嗚咽に遮られつつ、ぽつぽつと言葉を紡いでいくレアン。衝動的に行ってしまった行動が、取り返しのつかないことだと気付いた時には既にヒートは虫の息だった。
本来なら誰か人を呼びにいかなければいけないのだろうが、どうしてもできなかった。怖かったのだ。ヒートをこんな状態にしてしまって、クララになにか言われるのが。
はたまたクララが泣いて落ち込んで、自分がみんなから攻められるのが怖かった、ただそれだけなのだ。
「あたし、ヒートのことが大好き。大好きだから、だからっ……」
ごめんね。続けられた言葉に、そして今はじめて伝えられた彼女の想いに対する返答は、無い。
ただプロミネンスのミーティングルームである今二人だけがいる部屋の空気が、血の色で塗れた胸焼けの悪くなるような空気と沈黙が、不思議な重力を持って彼女を押し潰そうとしていた。
今誰かがこの部屋に入ってくれば、終わりだ。彼女が助けを呼びにいかなかった理由は、さらに悪化して彼女に直面してしまうだろう。
けれど、今の彼女にはそれまでの余裕が無かった。ただヒートへ対する罪悪感と、それでも尚残るクララへの嫉妬に対する自己嫌悪だけが彼女の胸のうちで荒れ狂っている。
——がちゃ、
その時、不意にミーティングルームの扉が開いた。はっとなってレアンは目を見開いてそちらへと視線を向けた。
どうしよう、怖い怖い怖い! 言葉にならない悲鳴が上がり、体が見る間に硬直していく。
視界が混乱で埋め尽くされそうになった時に放たれた声で、ようやく彼女は誰か入ってきたのかを確認した。
「……レアン……?」
「ばーん、さまっ……」
プロミネンスのキャプテン、バーンが目を見開いて立ち尽くしていた。悲鳴を上げるわけでも助けを求めるわけでも、レアンを異常なモノを見るかのような目で見るわけでもなく。ただただ、立ち尽くしていた。
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ちょっと某スレで某様と語り合った新ジャンルを開拓してみる。題名の元ネタわかった人てーあげて!
しばらくはこのシリーズが続きます・ω・