二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- いびつな人形は狂った様に踊り果て ( No.14 )
- 日時: 2010/07/07 15:56
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
こほ、と小さく咳をすると微かに口から血が飛び散った。口の中には血の味がこびり付き、嫌な鉄の風味が広がっている。
不動は口元を拭うと、汚れたユニフォームのままベッドと思い切り倒れこんだ。
こんこん、
息をつく暇もなく、ドアがノックされる。口を開けば血の味をまた再確認することになるのが嫌で、不動は軽く舌打ちする。
返事をするか少々考えたのち、「ん」と小さい声で彼なりの返事をする。
相手もそれに気付いたようで、きぃっと聞きなれた音を立てながらドアが開かれた。
「……不動」
入ってきたのは、佐久間と源田。何の用かと尋ねるのも煩わしく、不動はベッドの上に座りなおす。
やつれきった表情で二人を一瞥し、座れと目で示す。頬には青痣が出来ており、酷く痛々しい。
そんな不動の様子を見て、少し俯き気味で源田がぽつりと呟くように尋ねる。
「……大丈夫か」
ああ、あの部屋での物音を聞いていたのか。不動は悟り、小刻みに何度か頷いた。
あまり心配させることじゃない。心配されればされるだけ、面倒になるだけだ。
自分にそう言い聞かし、総帥に言われたことを伝えなければ、とため息をつく。
この二人を伝って他のメンバーに伝えてもらえば、自分で伝えるよりいくらかマシだ。
少しでも口を開けばまた血の味が充満しそうだったが、仕方ないかと小さく口を開く。
ぽつぽつと呟きような小さな声が、微かに空気を振るわせる。
「明日の練習は——」
「わかってる」
躊躇いがちに紡がれようとした言葉を、佐久間が遮った。少々ぎこちない笑みを浮かべて、続いて言葉を発する。
「大丈夫、もう伝えてある」
「……知ってたのか」
意外そうに言う不動に、「まあな」と苦笑気味な笑い声を洩らして佐久間が答える。
聞いていた。最初からというわけではないが、たまたまあの部屋の前を通りかかり、暴力を受けているとかろうじてわかる物音を聞いてからずっとその部屋の前で立ち尽くしていた。
その物音の中に混じり時折聞こえてくる会話は、十分というわけではないが二人の耳に微かに届く音量だった。
『明日も伝えろ。昨日の練習の倍の練習をする、と』
日に日にキツくなる練習に、そしてその練習を指示する不動に、若干の反感を覚えていたのは事実だ。
けれどその総帥の言葉の後、不動がすぐさま噛み付くような勢いで拒否したのをはっきりと聞いていた。
そしてその後行われた暴力の音、大きくむせ返る音、最後に交わされた会話。
勘違い。果たしてそんな言葉で済まされることではないだろうが、どちらにしても二人が不動を誤解していたのは事実だ。
全て、総帥に命令されたこと。不動は総帥に反発し、暴行を受けながらも——拒否を続けた。
それでも、最後には折れる。しかしそれも、仕方ないといえた。二人——否、チームメイト全員知っている。
不動の過去、そして彼が求めるモノを。
* * *