二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 01 <感じるままの形> ( No.152 )
- 日時: 2010/08/27 17:29
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
- 参照: http://2.syawa.net/nicotter/watch/nm9412945
〝狂った世界の中で共に笑おう〟
不規則に襲ってくる鈍痛と感情に、呑みこまれそうになった。
『強く、なりたくないか』
脳がひっくり返ったように頭が掻き回されて、酷い不快感が体中を蝕む。
『<これ>を使えば、すぐに強くなれる』
ぬるい涙が頬を伝うのがぼんやりとわかり、気がつけば腕を前へ伸ばしていた。
『<これ>が、欲しくないか』
靄が掛かったようにはっきりしない思考の中、無意識に両腕を伸ばす。
『<これ>——エイリア石が』
世界が、暗転した。
01 <感じるままの形>
今日も、寝起きがひたすら悪かった。どんな夢を見ていたのかはいつものようにすっかりと忘れているのだが、頬には涙の痕が残り目は充血している。どうやらまた悪夢でも見たらしかった。
実際は悪夢を見たかだなんて定かでは無かったが、これだけ泣いて寝起きが酷く悪いのならばどんな夢でもほぼ悪夢には変わりないんじゃないだろうか。
まだ完全に目覚めていない思考でぼんやりと考えつつ、彼は上半身を起こした。時計を見ると、今は六時十五分だった。少し早く起きすぎたか、とは考えたが寝ようとは思わなかった。
「……ふぁあ」
彼は欠伸をして、体を伸ばした。今日も、学校だ。部活時間まで退屈な授業を送ることになるが、ひとまず彼のクラスには馬鹿なムードメーカーがいるためそこまで苦痛でもないことだった。
早いうちから制服を着てしわをつけてしまうわけにもいかないので、彼はベッドの隣においてある本棚から適当に一冊抜き取った。一昨日買ったばかりの、まだ読んでいない小説だ。
寝ないようにしないと、と心の中で呟きながら、彼は小説を開いた。
「風丸ーっ!」
背後からの大声に、風丸は鮮やかな水色の髪を揺らして振り返った。しゅっ、とポニーテールが空を切った。こちらに手を振って駆けてくる円堂を認めて、風丸は立ち止まる。
結構な速度で走っていたはずだが、そこはさすがサッカー部キャプテンというべきだろうか、微塵も疲れた様子は無い。
「よう、円堂」
追いつき隣へと並んだ円堂へ、風丸が声を掛ける。いつもと同じ、学校がある日は大概こうなる特に変わりない風景だった。おはようといつも通りに挨拶を交わした後、円堂がいつもとは違う会話を切り出した。
「あ、そだ。今日、部活無いから」
「……へ?」
日曜日を除きほぼ毎日ある部活は、雨が降っていてもミーティングやら掃除やらなどでいつもより時間は短くなるもののなくなることはない。むしろないと言われても円堂は『廊下で自主練だ!』といって中々メンバーを帰そうとしないのだ。
そんな円堂が不意にそういった。特になにかこれといった行事が控えているわけでもなく、顧問の先生が出張だとしてもサッカー部なので他の先生が来るかもしくは部員達だけでの特訓が始まるかになるだろう。
そのはずなのにいきなり予想だにしなかったことを言われて、思わず風丸は間の抜けた声を洩らす。円堂が楽しそうな様子で、はきはきと風丸に説明するように続けた。
「今日、サッカー部全員で帝国学園に行くんだ!」
「……なんでいきなり?」
円堂の幼馴染である風丸は、いきなりありえないことを言い出す円堂の挙動にすっかりと慣れてしまっている。そのため帝国学園へ行くとは言われても練習試合なのかもしれないなどいくつかの予想が挙がるため、微かな動揺さえもすることはなかった。
ただきょとんとした様子で尋ねたのは、練習試合ならば部活が無いなど言わないだろうし、まず前々日ぐらいには報告してくれるだろうという思考があったからだ。
「いや、鬼道が昨日『帝国学園の皆がまた会いたいといっていたから、また予定を調整しておいてくれないか』って秋に頼んでたからさ。だったらもう今日行こうと思って」
「……待て円堂。急に押しかけたら向こうにも迷惑だろ?」
相変わらずの円堂の少々急な思考に呆れた視線を返しながら、風丸は苦笑しつつ返した。会うだけなら休みでもいんじゃないのか、という言葉は寸でのところで飲み込む。
休みの日は何かと都合も悪い人もいるかもしれないし、学校がある日のほうが楽だろう。それに部活は無しといったが帝国学園へ行けば恐らく、否必ず練習試合をすることになるだろう。
まあ円堂のことだからな、とぼんやりと考えていた風丸は先程から自分達の脚が止まっていたことに気付く。いつから止まってたっけ、そう考えて——円堂がこちらへ呼びかけてきてからだ、と思い出す。
少々の焦りが、ぽつんと浮かんだ。
「なあ円堂、このままじゃ」
遅刻するんじゃないか、そう続けようとした言葉は先程の風丸の問いに答えたはきはきとしたいつも通りの元気な円堂を声がぶつりと綺麗に遮った。
「大丈夫! 昨日のうちに鬼道にもう連絡とってもらったからさ!」
嬉しそうな笑顔の円堂に、先程遮られた言葉を風丸がおずおずと告げた。
「……走ったほうがいいんじゃないか」
「あ」
抽象的な言葉だったが、それだけで十分伝わる言葉だった。円堂も脚が止まっていたことに気付いていたのかないのか短く声を洩らし、ぎぎぎ、とまるで古い人形が首を動かすような効果音がつきそうな動作を顔を風丸へと向けた。
「……走れ!」
円堂が走る構えもせずただそう叫ぶのと、風丸が元陸上部らしい機敏な動きで走り出すことはほぼ同時だった。