二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 痛い痛いなんて泣かないで、 *風丸夢 ( No.159 )
- 日時: 2010/08/27 10:35
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
- 参照: 勝手に彩華ちゃんと風丸で夢。ふはは俺タヒねばいい。
*[痛い痛いなんて泣かないで、]
「いたい」
いたいんだ、生気の抜けた声でぼんやりと言葉を紡いだ風丸さんは、いつものように膝を抱えて壁にもたれかかっていた。体にかけているのは、ダークエンペラーズの時にユニフォームの上からつけていた黒いマント。
マントの合間からかすかに見える風丸さんの腕には、青い痛々しい痣があった。わたしは思わずため息をついて、風丸さんに話しかけた。
「風丸さん、大丈夫ですか」
「いたい、いたい」
何を問いかけても、何を言っても言葉は返してくれない。ほとんど慣れてしまったし、こういう状態の時以外はいつもの頼れる風丸さんだからさほど気にしないのだけれど。
というより『大丈夫ですか』なんて明らかに大丈夫ない目の虚ろな風丸さんへ問いかけてもどうにもならないことなのだ。それは凄くわかっていたけれど、思わずそう問いかけずにはいられなかった。
「また昨日、見たんだ」
不意にいたいいたいと連ねられていた言葉が切れ、風丸さんが深いためいきをつき深呼吸をしてから、どうやら少しは正気に戻ったらしい先程までとは違う力のこもった言葉を紡いだ。
あの夢を、ですか? そう問いかけるのは躊躇われた。尋ねてしまい思い出させてしまったら風丸さんにも負担が掛かるだろうし、あの夢だなんて確証はどこにも無いのだ。
なんて声を掛ければいいのだろう。ずいぶん長い間この状態の風丸さんといるけれど、咄嗟に判断ができない。掛けようと思う言葉を頭の中で転がして賞味していると、風丸さんが続けた。
「あの、夢を」
ああそうか、わたしの思考は無駄に終わったのか。そう思ったけれど、風丸さんからそういってくれるなら楽だった。前みたいに不本意に言葉を掛けて、錯乱させてしまってはいけないのだから。
「また、出てきたんだ。エイリア石が、夢の中に」
ぼんやりと、少々上の空気味に風丸さんが言葉を連ねた。もうそろそろ、眠る頃なのだろうか。
<エイリア石>。ダークエンペラーズに入ることで与えられた、人ならざる尋常な力を授けてしまう石。力を求めすぎる故に手を出し、深い傷跡を負ってしまった人も多くはないらしい。
風丸さんも、その中の一人だった。わたしもエイリア石に手を出そうとして——風丸さんに止められた。最初は反発したけれど、風丸さんの一言でわたしは手を出すことは叶わなくなった。
〝お前のことが、大切だから〟
大切だから、お前にはこちら側の世界へ来て欲しくないんだ。
その風丸さんの言葉は、今も耳にしっかりと残っている。わたしのことが、大切だから。果たしてそれに恋愛感情が含まれているとかいないとかは別にして、風丸さんはわたしのことを大切に思ってくれている。
その想いを打ち砕いてまでエイリア石に手を出そうとは、どうしても思えなかった。どうしてだろう。何度目かもわからないそんな疑問の中で生じた結果は、わたしが風丸さんのことを好きだからというわけじゃないのだろうかというものだった。友情や仲間としてでなく、恋愛感情として。
「どうしてだろうな、彩華。俺はもう、エイリア石なんて使ってないのに」
不意に風丸さんから自嘲気味の乾いた笑い声が洩れ、我に返らされた。ぱさり、風丸さんの体からマントが落ちた。雷門のユニフォームでは隠しきれるはずもない切り傷や打撲の痕——風丸さんの自傷の痕があちらこちらに残っていた。
練習中に何か尋ねられるんじゃないだろうか、と疑問に思ったけれど最近めっきりと風丸さんは練習へ参加していないのだ。見られる以前に、見る方法が無いのだ。
こんな風丸さんを見たら、円堂さんはなんて思うのだろう。脳裏にそんな疑問が掠めては、一瞬で消え去った。
「風丸さん、大丈夫ですよ」
いつかきっと、そんな夢は見なくなりますから。そう続けようとして、やめた。見なくなるという保障がどこにあるというのだ。むしろ風丸さんが立ち直るまでずっと見続ける可能性のほうがはるかに高いのだ。
無責任な発言を自重し、風丸さんへと微笑みかけた。目が先程までとは違う虚ろになっていて、眠たそうにまどろみかけていた。
「風丸さんになにかあっても、どんなことがあっても」
長い息を吐き出しながらゆっくりと目を閉じる風丸さんに向けて、わたしは言った。
「わたしは必ず、風丸さんの傍にいますから」
眠ってしまったのか、力を失った膝を抱えていた右腕が膝からずり落ち、その手に握られていた刃のいくらか伸ばされたカッターがかしゃんと小さな音を立てて落ちた。
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ごめんなさい。鬱丸さんと彩華ちゃんでした。突発的に書きたくなってしまってごめんなさい。
しかも俺設定すぎる。申し訳ないorz 題名はマトリョシカより抜粋させていただきました!
「*」は夢小説ということですわあ今更。