二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【稲妻】快光メランコリック【話集】 ( No.166 )
日時: 2010/08/27 20:57
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
参照: 大好き症候群ver.源田






 気付いたのはいつだっけ、まあそんなのどうでもいいや。本気でそう想ってしまうのは、もうこの想いは届かないとはっきりとわかりきってしまっているからで。
 もしまだチャンスがあるからとかそういうのだったらもしかすると悩みに悩みぬいた挙句もしかするともしかすると告白とかもしたんじゃないだろうか、というかするだろうなぁ。
 佐久間が『ほら、今だろ?』みたいに茶かしてきて、勢いで告白してしまうかもしれない。部活中にしてしまうかもしれないし、もしかしたら帰り道とか。
 今更そんなことを考えたって仕方が無いしどうにもならないのだが、むしろ今更といえば“どうして俺は今更こんな感情に気付いたんだよ”と自分自身を叱咤してやりたい。
 いっそ気付かないほうが、楽だったというのに。

「じろーう!」

 いつものようにグランドに座り込んで喋っていると、笹本が佐久間を呼んだ。いつもならここで『ほらほら、呼んでるぞー将来のお嫁さんが』とか茶かすはずなのだが、残念ながらもうそれもできそうにない。
 どうして今頃気付いてしまったのだろう。どうせならもっと早く気付いていれば、佐久間のことも心から応援できたかもしれないのに。いや、今でも応援しているつもりだけど。
 佐久間は少しまごついた様子で、いつも通りの佐久間みたいにすぐに返事をすることはなかった。どうしたんだろう、と佐久間を見据えているとしばらくして佐久間が立ち上がった。
 何を戸惑っていたのかはわからないけれど、少し落ち着いてきた頭で佐久間へと掛ける言葉を選んだ。

「……ほら、早くいってこいよ」

 とりあえずそれだけ言っておくと、「黙れ馬鹿」と罵られた。これは、いつもの佐久間だ。先程までみたいになんだか一瞬フリーズしたような佐久間はいつもの佐久間と節々が合点しない。
 まるで、告白する直前みたいな様子だった。アイツ本人は気にしていないのかもしれないが、少し頬が赤かったような気がする。やっぱり佐久間は笹本のことが好きなんだと、心底思い知らされた。
 それと同時に、俺が笹本を好きだということも。俺が佐久間へと向ける感情が、これから嫉妬に変わっていくことだけは無いと願いたい。むしろそうなったら自己嫌悪に陥るかもしれないけれど。
 
 それでもなんだか、これでいいような気もしていた。

 なんていうのかはわからないけれど、笹本には佐久間といるほうが似合っているような気がする。というより、笹本は佐久間といるほうがどぎまぎすることもあるけれど本当に楽しそうだ。
 いや、別に俺達と一緒にいるのが楽しそうなわけじゃないというわけでもないけれど、……なんていうのだろう、とにかく一層笑顔が輝いているように見えるのだった。
 それなら、佐久間と一緒になったほうが幸せだろう。ぼんやりとそんなことを考えている自分に気付いて、少しは俺も大人になれたんじゃないかとか思ってしまう。これぐらいのことで、馬鹿らしい。
 ……どちらにしても、笹本は俺よりも佐久間のほうが何倍も似合うってことだ。

「よくやるなー、あいつら」
「まぁ、もう公認ですからねー」

 ひやかすように辺見と成神が笹本と佐久間を見て喋っていた。そういえば、そうだっけ。俺達の間では——本人が聞けば激昂するだろうけど、まあそれも照れ隠しだろうが——笹本といえば佐久間で、佐久間といえば笹本だった。
 イコール、自動的に二人は付き合っているということになる。遊園地とか水族館で楽しそうに騒ぎながらデートしてたりすんじゃねえの、とかいう噂も出回ったりしたことがあったっけ。
 確かに、改めて思えば公認の仲だっただろう。そのうちの一人に恋をするとか俺はつくづく馬鹿だなぁと思う。今更気付いたこと、むしろ気付いてしまったことのせいで十分馬鹿だと自覚しているのに。

 ああでも、やっぱり幸せにはなってほしいよなぁ。

 佐久間は大切な仲間で親友だし、笹本のことは恋愛感情を抜きにしても大切な仲間だし。
 もし泣かせたら承知しないぞ佐久間! ……なんて言えるわけないっつの。

          * * *

「そういや結局、告白とかしたのか?」

 部活の帰り道、なんだか気になって尋ねてみた。というのも佐久間が帰ってくるまでの時間が結構長くて、練習始まりますよーっとマネージャー達が呼びかけて数分後やっと走って帰ってきたぐらいだった。
 あーこれは完璧にできてるな、とかひやかす気満々の部員達の予想通りに、佐久間はどこかどぎまぎした様子で、でもどこか楽しそうな嬉しそうな様子で帰ってきた。
 佐久間に「どうなったんだ?」と聞こうとかしたやつらがいたけどもれなく殴られていた。

「……は?」

 予想通りぶっきらぼうな呟きが返事としたやってきた。これは意味がわからなかったのか、はたまた聞かれて不機嫌になっているのか……結構鈍感な佐久間のことだから、恐らく前者だろう。
 誰にだよ、と今にも尋ねてきそうだったから早めに尋ねておいた。

「いや、笹本となんか喋ったんだろ?」
「……あー……」

 怒られるだろうか、と内心少々冷汗をかきながら恐る恐る聞いてみると、佐久間は別に怒り出したりはたまた不機嫌になることもなかった。俯いて、空く間を誤魔化すように長く長く息を吐き出すと同時に言葉を繋げる。
 若干頬に赤みがさしていたのがちらりと見えて——一瞬で理解できた。ああ、上手くいったんだなぁと。
 それと同時に生まれたのは、少し哀しいような笑顔だった。嫉妬が若干含まれているかもしれないが、そんなものが含まれているとしっかりと自覚してしまったら、本気で自己嫌悪に陥って抜け出せなくなりそうなのでそれ以上考えるのはやめておいた。

 なんだかなぁ。

 ここは喜んで祝福してやるべきだろうが、しかし状況が状況なだけさすがに自分の感情を押し殺して綺麗な綺麗な笑顔なんて浮かべれる自信ないぞ。浮かべれたとしても声が出なくなりそうだ。
 二人が引っ付いて嬉しいような、嬉しくないような。とりあえず、嫌な沈黙になるのだけは避けたかったので、佐久間の頭を軽く小突いて言ってやった。

「良かったな」
「……なっ……ば、ばかやろっ!」

 出来る限りはにかみながらそういうと、佐久間が牙をむいた肉食獣みたいな勢いで顔を上げて殴りかかってきそうになったので、軽く腕で防御しておく。予想通り、次の瞬間腕には軽い鈍い痛み。
 とりあえず、今だけはせめて祝福しておこう。それに、このほうがいいだろうって俺自身も思ったのだから。

 うだうだ言うのは、また今度。



                             - 大好き症候群(好きでした、)





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氷橙風様へ全力で捧げます。こんなのでごめんなさいでも頑張りましたごめんなさいぎゃああああ!
ほほほ包丁はやめてくださいガラスのコップもやめてくださいぎゃああああすみませんでしたああああ!