二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

消えてみましたが ( No.179 )
日時: 2010/09/30 18:34
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

03.
 大嫌い大嫌い嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い大嫌い死んじゃえ!
 いつだっけなぁ、前にもこんなことをレアンに言われたような気がする。多分、ずっと前。低学年の頃かもしれないし、六年の夏かもしれない。はたまた、今年かも。
 いくら自分の記憶に追求してみてもどうやら答えは出そうになかったので、とりあえずそれはわかってもわからなくてもいいという項目のところにほうっておいた。そんなものないけど。
 じくじくと痛む腹部に手を当てると、すぐに血で真っ赤に染まった。どろりとした、鳥肌が立つ決して良いとはいえない感触だった。服は予想通りずたずたで、乾いてきたのか血は赤黒く変色していた。
 このまま血を流しっぱなしにしたらどうなるんだろうか。死ぬ? いや、それはないか。どうせ小さな切り傷みたいなもんだし。止まってくれれば嬉しいが、今はそんな兆しは全く見当たらない。

「死んじゃえ、死んじゃえ!」

 どうしてレアンがいきなり吠え出したのか、先程まで落ち着いていた俺の腕の中に拒絶反応らしきものを示したのか。正直全くわからない。十年近く一緒にいて恥ずかしいことだ。とは思わないが。
 レアンはただ呪文のように激情に身を任せ激しく叫ぶだけで、それ以外は何もしなかった。今度は手に持ったカッターナイフを振り上げることも、俺に向けることも、何も。
 きつく歯を食いしばって目を見開いて、どこか上の空な感じのようにも見える空虚な狂った表情で叫び続ける。こんなレアンに遭遇したのは初めてなので、どうしようかと思い悩む。いい解決策が見当たらない。
 それでもレアンをこのままにしておくと何をしだすかわからないし、レアンの叫び声で誰かがここへ来てしまっても無論アウトだ。そういえばクララはちゃんと逃げられただろうな。
 レアンがカッターナイフを持っていたからってさすがに警察は呼んでないよな……包丁とかじゃなくてカッターナイフだし。プールの件は知らないはずだし、普段のレアンからはこんなことは考えられない。
 誰かに話すことぐらいしかしないだろう。警察呼ばれたらどうしようか。まあその確立は低いのみたので保留。

「死んじゃえばいい、はるやなんていらないッ!」

 ……いらない? ああ、俺にとってレアンはもういらないのか。そうか。だから、ああやって拒絶したのか。なんだか違う気もしたけれど、あえてそうやって受け取っておこう。その方が、悲劇の主人公っぽいし。
 いらない。いらない、か。なんだか懐かしい響きだな。……そういえば、なんだか思い出したような気がする。なんだっけ。なんだっけ。なんだっけ。ちっちゃい頃、というほどちっちゃい頃でもなかったような気がする。
 いつものようにレアンが泣きじゃくって、俺がいつものようにレアンを落ち着かせていた時のはず。いつだっけ。『嘘つき』。いつだっけ。『大嫌い』。いつだっけ。『死んじゃえ』。ああそうだ。
 小学六年生の夏休み、俺達が付き合い始めた頃だ。確かレアンは、親に虐待を受けていたんだっけか。凄く幼い頃のことだけれど、その時と同じような場面に出会ってしまうとおぼろげにフラッシュバック、そして酷い時は一気に弾けて狂乱錯乱。

「消えてッ、消えてよ、ねえ、いらない、はるやなんていらない、こんなはるやなんてっ、はるやはッ、はるやは、」

 はるやは、あたしのことをいじめたりしないもの。
 ——ああ、そうか。そういえば、前に錯乱状態になった時、言ってたっけ。正面から、強く抱き締められることがトラウマだって。毎日毎日両親に虐待され、けれど夜には抱き締められて謝れる。
 行き場を失った苦しみと辛さと拒絶感が、ぐるぐるとレアンの中で段々と増幅していって。どうしようもなくなって、結局自傷行為に走って。まだ、幼かったというのに。
 レアンが壊れかけた、その時に、レアンがおひさま園へ来た。本人が言うには、いきなり捨てられたという。その両親が何を思ってレアンを捨てたのかは、わからない。どうしても想像して膨らんでいくのは、両者が報われない哀しい結末だけだ。

「れあん、」
「やだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだあたしはあたしは、あたしはどこにいるの、」
「れあん、」
「あたしはなんなの、」
「れあん、」
「あたしはだれ、」
「れあん、」
「そもそもあたしなんてしらない、なにそれ、わからないよ、」

 小六の夏休みも、こんなことになったんだっけ。正面から強く抱き締められることがトラウマだと、ちゃんとレアンから聞いていたはずなのに。なんで俺は、そんな大事なことを忘れていたのだろう。
 どうしようもなく、馬鹿だと思った。どうしてそれは、そのことを忘れられたんだ。情けなくなる。けど今更後悔したって遅い。早く、レアンを落ち着かせないと。

「やだ、やだやだやだ、しんじゃえ、しんじゃえってば、もういや、いやだよ、」


*いちほ! 寒くて指が動かんww