二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 01 <感じるままの形> ( No.182 )
- 日時: 2010/08/30 23:17
- 名前: 宮園紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
- 参照: 改名とかとか。「みやぞのしほん」です。
01-3 <感じるままの形>
「ちょっとちょっとー、聞いてないんだけど次郎」
むーと唸りながら、茉莉沙が佐久間の元へとばたばたと駆けて行く。「なんだよ」、と佐久間が不意を付かれたようにきょとんとして茉莉沙を見る。
手に持ったスポーツドリンクを飲みながら、源田が茉莉沙の慌しい様子につられてやってくる。刑事が尋問するかのような、噛み付くような勢いで茉莉沙が尋ねる。
「今日、雷門中来るって本当なの?」
「あ……言うの忘れてた」
そういえば、といった様子の佐久間を見て、茉莉沙が呆れ顔になる。どうやら佐久間は知っていたようだが、先程まで完璧にそのことは頭から抜けていたようだ。
そういや鬼道から連絡あったなぁ、とどうやら源田も忘れていたようで思い出したようにしみじみと言う。思わず呆れるしかない茉莉沙は、遅れてついてきた來紗に振り返る。
「……ねえ來紗、この馬鹿達どう思う?」
茉莉沙に馬鹿達と称された佐久間はむっとした目付きになるが、源田は大して気にしてはいないようで苦笑交じりの微笑を洩らす。尋ねられた來紗は小さく唸ってから、笑いながら答える。
「……馬鹿?」
「その通りだねまさしく」
少々控えめに返された言葉に吹き出しながら茉莉沙が肯定する。俺らの扱い相変わらずひでーなーと源田に向かって言う佐久間だが、やはり源田はそれほどまで気にしている様子はない。
穏やかといえば良いように聞こえるのだが、源田は少々まったりしすぎていると佐久間に指摘を受けていた。とはいえ実際その通りな箇所が多いので、たいした反論もできないのだが。
ほんわかとした空気の中、ふとといった様子で佐久間が洩らす。それは茉莉沙への問いかけで、それほどまで大きな声でなかったにせよいつもみたいに騒いでいるわけではないので、聞き逃すことはなかった。
「ところでさ、なんで雷門が来るってだけでそんなに焦ってんの?」
その佐久間の問いかけをきき、あーっ! と茉莉沙が叫び声に近い大声を上げた。いきなりのことにきょとんとする源田に、今度は何だよと不思議そうにする佐久間。
來紗だけは何故茉莉沙がそんな声を上げたのかに気付いたようで、茉莉沙に笑いかけた。
「そんじゃ、あちらが来る前にいこっか」
「……どこへ?」
來紗の言葉に思わず聞き返した佐久間に、「決まってるでしょ?」と茉莉沙が笑みを浮かべる。
「買い物に行くのよ!」
「……買い物ぉ?」
なんでだよ、と状況がつかめぬままに尋ねる佐久間に、茉莉沙が答える前に源田が言葉を返した。
「ほら、せっかく雷門が来るんだから何も無しじゃ寂しいだろ?」
源田の説明に、遠足かなにかかよ! っと突っ込みを入れた佐久間の頭を茉莉沙が素早く小突いた。呆れたような笑顔を浮かべて、ぐりぐりと頭に右肘を乗せて押す。
その痛さに顔を顰めて、ぐあーっとそれを振り払おうとする佐久間。しかし振り払おうと伸ばした手が当たる前に茉莉沙は頭の上から肘をどけており、手は空を切るだけだった。
そんな風に楽しく戯れている——と聞いたら本人達は怒るだろうが——二人を横目で見ながら、源田が來紗へと尋ねる。
「それより、荷物大丈夫か? 俺、どうせならついていくけど」
「あ……有難う。でも多分大丈夫、そんなに多くはないと思うし」
自ら荷物持ちを買って出る源田に、嘆息しながら來紗は言葉を返す。源田はのほほんとしてるけど結構きっちりしてて頼りがいあるよなぁ、とぼんやりと思う。
そしてそういえば源田は鬼道と一番仲が良いとか喋っていたことを思い出して、幼い頃から一緒にいたのなら鬼道の性格に感化されたのかもなーと思考を巡らす。
なにはともあれ源田の性格を自分も見習おうかな、と簡単に結論づけて、來紗は茉莉沙を呼ぼうとそちらへ目を向ける。案の定、ぎゃーぎゃーと喧嘩っぽくなっていた。とはいっても二人とも笑顔でいるところを見ると、友達同士がする軽い遊びのようなものだろう。
やはりそれを本人達に言ったら、一発どころじゃないほど殴られるかもしれないが。二人の雰囲気を壊すのに少々躊躇しながら声を掛けようとすると——
「おい佐和ー、タオルくれ」
後ろから、不動に声を掛けられた。あーっ、と先程の茉莉沙ほどではないもののそれなりに大きな声を上げていつの間にか後方に立っていた汗だくの不動を指さす。
「不動お前どこ行ってたの。練習中にいきなりどっかに消える癖直せ」
「黙れよ練習だよ別にいいだろどうせ練習なんだから」
そういう問題じゃないっつの、と毒づきながら來紗は不動へベンチの上に積んであるタオルを手渡した。軽く礼をいってタオルを受け取り、首掛ける。そんな不動を見ながら、來紗はぽつりと呟く。
本人の前で堂々と言って突っかかられたことがあるので、できるだけ小さな控えめな声で。
「……色白すぎだよね」
「黙れこの野朗」
生憎聞こえていたようで、すぐさま声が返ってくる。そんなこと言われてもだって白いんだし、と來紗は心の中で呟く。外でずっと走り回ってるくせに、白い。
あまり外で走り回ったりしない自分より白いんじゃないの、と思わず自らの目を疑う。男子のくせして華奢な体だよなあ、脚ほっそなどと声に出したらまた何か言われるだろうと大体予想はついていたので、かすかに羨みながら心の中でぼそぼそと呟く。
「……佐和、買出しは?」
とそんなことを行っていると、源田にそう声を掛けられはっと我に返った。未だ佐久間とじゃれている茉莉沙に少し悪いなぁと思いつつ声を掛けて、少々の言葉を交わす。
結果、買出しには茉莉沙と來紗と佐久間と不動が行くことになった。無論佐久間と不動は「なんで俺達が!」と不満たらたらの様子で抗議してきたが、「よく考えたらジュース持ちがいるから」という茉莉沙の言葉であっけなく一蹴され、終わる。
源田を行かせればいいだろという言葉も、残念ながら源田は成神の必殺技の特訓に付き合いに行ってしまったので無効となった。ほぼ必然的に、この四人は近くのコンビニへと脚を進めることとなったのだった。