二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 佐久茉莉 - いいんですか? ( No.187 )
- 日時: 2010/09/03 18:36
- 名前: 宮園紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v=HzW6vMoDV44
*[ごめんね と ありがとう]
「おかえり! 待ってたよ、次郎!」
真・帝国学園が破れ、俺が退院して帝国学園へ帰った時。いち早く気付いてくれたのは、茉莉沙だった。嬉しそうな笑顔でこちらへ駆け寄ってきて、手を引いてくれた。自分が受け入れてもらえたということがはっきりとわかって、嬉しいような安堵のようなとにかく心が軽くなった。
毎日かかさずに見舞いに来てくれたのは、多分茉莉沙だけ。とはいっても確かにみんな部活だったりで大変なんだから、まあ仕方がないといえば仕方が無い。それでも毎日来てくれて、嬉しかった。
俺には、こんな心配してくれる人がいるのに。茉莉沙だけじゃなく、帝国のみんながいるというのに。どうして、エイリア石なんかに手をだしてしまったのだろう。今更こんなことを考えても、遅いのだけれど。
源田は俺より二週間ほど早く退院していた。そりゃ俺のほうが重症なんだから、まあ当たり前なんだろうけど。俺にとっては、帝国学園は約二ヵ月半ぶりぐらいになるわけだ。
「……ただいま」
にっと笑って、そう返す。帰ってきた。大好きな仲間達の元へ、俺を育ててくれた帝国学園の元へ。茉莉沙に手を引かれながら、部室のほうへと歩いていく。今は部活時間だ。
まだ前までみたいに練習することはできないだろうけれど、みんなのサッカーを眺めたり一緒に軽く走ったりすることぐらいならできる。またみんなとサッカーするために、早く脚を慣らさなければ。
俺は、帝国学園へ帰ってきたんだ。ぼんやりと、またその事実がじんわりと脳髄に浸されていった。
*
「ね、じろー。……じろー? 次郎ってば、聞いてる?」
ふと肩を叩かれて、ハッと我に返る。どうやらぼーっとしてしまっていたようで、まあそれも仕方ないんじゃないだろうかとか思ってしまう。茉莉沙につれられ、部室へ。
みんなに快く迎えてもらえて、本当に嬉しくて。泣きそうになったりもして。できれば今すぐサッカーをしたかったけれど、医者からはまだあまり強い運動がしないほうがいいと言われている。
ゆっくりと慣らすため、まずはベンチに座ってみんなの練習を眺めているようにと促されたのだった。
「ん、……ああ、ごめん」
懐かしさからか、罪悪感からか。いつの間にか上の空だったようで、それも結構長かったらしく茉莉沙は不思議そうな表情でこちらを見ていた。笑顔になりながらそういうと、茉莉沙もにっと笑顔になる。
長い間、茉莉沙と一緒にいて。そろそろ自分もこの感情に気付きつつあるというのは、というかもはや気付いてしまっているというのか、重々に承知していた。
だからといって伝えるというのは考えなかったし、正直今のままで良いと思った。俺には、少し距離を置いて付き合っているほうが気楽なのかもしれない。
「じろー、大丈夫? 脚痛くない?」
「大丈夫。ったく、お前はいつも心配しすぎなんだよ」
もし、俺が茉莉沙のことを“好き”と認めてしまい、俺がもっと一緒に茉莉沙といることを望んでしまったら。あの時の——真・帝国の時のようなことになった時、怖いからだった。
鬼道さんや、帝国のみんなには許してもらえた。茉莉沙にも、許してもらえた。でも、もし二度目なんてあったら? 正直、俺は言い切れない。また、エイリア石のようなものを渡された時に拒否できると、言い切れない。
なんて自分は弱いんだろう、と凄く嫌になる。それでもまだどこかで、力を求めてしまう自分がいる。
「(——俺って、なんでこんなに愚かなんだろうな)」
心の中で自嘲気味に自己嫌悪に浸りながら呟いてみても、出てくるのはため息ばかり。解決策なんて無い。
「もー、またそんなこといって! 少しは感謝してよ、次郎」
茶化すようににっこりと笑いながら、茉莉沙がそう言う。ふと、こんなに人を好きになってもいいんだろうかとそんな疑問が頭を過ぎる。俺なんかが、茉莉沙を好きになっても。
茉莉沙が俺のことを好きなわけがないとはわかっている。それでも、俺が茉莉沙に依存しかけているのは列記とした事実なのだ。このままじゃいけない、何度もそう言い聞かすのに。
やっぱり出てくるのは、ため息ばかり。
「……あたし、次郎が帰ってきてくれて嬉しいよ」
ふと茉莉沙の笑い声がやんで、何事かと顔を上げる。すると、いつもの茉莉沙らしくない大人びた笑みを浮かべて、そう言われた。病室でも何度も言われた、その言葉。
すっと、ぼんやりと脳裏を掠めるのは、最初に俺が意識を取り戻した時の茉莉沙の表情だった。
泣いていた。何度も俺の名前を呼んで、泣いていた。その時の表情を具体的に表すなんて俺には到底できそうもないけれど——俺を、本気で心配してくれているってことはありありと伝わってきた。
ずっとずっと、泣いていた。俺が意識を取り戻したのにも気付かず、俯いて泣いていた。俺が声を掛けると、茉莉沙はもう一度俺の名前を呼んで、俺が意識を取り戻したことははっきりと確認して——
また泣いた。
思えば最近の俺は、茉莉沙を泣かせてばっかりだった。真・帝国のことで散々泣かせて、そういえば電話を掛けてきた茉莉沙にも酷いことを言って泣かせたっけ。
ああ、俺最低だ。なんでこんなにもお前を泣かせてるんだろう。なんでお前を笑顔にすることができないんだろう。
そしてお前はさ、嬉し泣きって技も持ってて。俺が意識を取り戻して、今度は嬉し泣きして。あーあ、やっぱり俺、お前を泣かせてばっかりだ。
「……ごめんな、茉莉沙」
無意識に、口から洩れた謝罪。本当はどれだけ謝っても許してもらえないんだろうけれど、俺にはただ謝ることしかできない。俺のために泣いてくれた、茉莉沙への感謝を送ることも。
きょとんと、茉莉沙が目を丸くしていた。それでも、俺は続けた。感謝を送ることはできなくても、この言葉なら送り続けることはできるから。この言葉に、ありったけの想いを乗せて。
「——有難う」
いつも俺のそばにいてくれて。いつも俺を励ましてくれて。いつも一緒に笑ってくれて。
しばらくは、ごめんと有難うを繰り返していくよ。けど、多分一番回数が多くなるのは。
きっと——有難う。