二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

風塔(タヒネタ) ( No.189 )
日時: 2010/08/31 16:24
名前: 宮園紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

(まるで人の生き様はシャボン玉のようだと、あの人は言っていた。)


   【シャボン玉】



 ここまで塔子に依存しているとは、思いもよらなかった。俺が塔子に好意を持っているのは認める。もう、大分前に認めたことだ。今更それを覆すことなんてしない。
 好きだと伝えたことは、一度も無い。そう気付いた時には、お前はもうどこかへいってしまっていたから。遠い、きっと俺には届かないであろうどこかへ。原因は、不明だった。
 家出でなにかだろう、死体は見つかっていないから誘拐でもされたんじゃないか。そう騒ぐだけ騒いで、怪奇事件が起こればそちらへいってしまう。そんな警察やマスコミが大嫌いだ。
 とはいっても、塔子は大統領の娘なのだ。簡単に捜査が打ち切られるわけでも、マスコミからの興がそがれるわけではなかった。その間は、まだ塔子がどこかできっと生きてるような気がしていた。
 少なくとも、人々の記憶の中にはまだいたんだ。

「あぁ、」

 塔子がいきなり失踪してから、五年が経った。世間は落ち着きを取り戻し、マスコミ達も全く情報が提供されなくなった何年間が続いていたから死亡と決め付けた。
 警察はまだ動いているのか、それはわからない。塔子のことを見かけるのは、年に数回やっている報道番組の特集のようなものの回想の写真だけとなった。

「何で俺は、こんなに弱いんだろ」

 いつしか人々の記憶の中から、『財前塔子』という存在は消えつつあった。それが無性に寂しかった。
 五年も経つというのに、まだ塔子のことが割り切れない。それは良い意味でとらえればそれだけ塔子のことを想い、いつか帰ってくると信じているということになるだろう。
 けど、俺は悪い意味でだ。というより『いつか』帰ってくる、などというほぼ諦めた感じを持っていることからそれには完璧に当てはまらない。ただ俺は、塔子から抜け出せないだけだ。

 あの笑顔とか、声とか、口調とか、走ってる姿とか、俺に掛けてくれた言葉とか、全部。

 耳や眼や脳裏にこびり付いたそれらは、今も風化することなく潜んでいる。思い出そうとすれば、簡単に思い出せるのだ。その当時のように、ありありと。何もかもが、鮮明に。
 どうせ人はいつか死んでいくものだ。今死んでも未来に死んでも過去に死んでいても、死ぬという事実には変わりない。生きたからには、抗えないのだ。それをわかっているというのに、なんで俺はこんなに弱いのだろう。

 まるでシャボン玉のようだと思った。

 生まれて、あっさりと消える。歩んできた人生が、突然ぷつりと途絶える。死というものによって、閉ざされる。
 それと同じように、シャボン玉はぽつっというかすかな音とともに消え去ってしまう。誰の記憶にも、残ることなく。

 人の記憶は、いずれ風化されて消えていく。そのことを改めて思い知って、無性に寂しくなった。



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人間って本当に脆い、ということを書こうとしたら先ほどまで読んでいた目明しに大きく影響されました。まる。
二巻までしか読んでないけどね! すでに涙腺ゆるゆるだけどね! さとしぃぃぃぃ(ry
なぜ風塔になったのだろう。ごめんなさいごめんなさいまたほのぼの塔風書きますごめんなさい。
ふーへのコメ返しは今からしますー。