二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 長編01 <感じるままの形> ( No.191 )
- 日時: 2010/08/31 19:58
- 名前: 宮園紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
01-4 <感じるままの形>
「ねー、お菓子なににしよー」
「おい茉莉沙、菓子とか持ち込んでいいのかよ?」
コンビニの扉を開けると、コンビニ内の冷気がわっと押し寄せる。外のむっとした暑さはあっという間に寒気へと変わり、急激な温度の変化で鳥肌が立つのがわかった。
茉莉沙が駆け足で菓子売場までいき、振り返って訪ねる。大して広くないコンビニのため、駆け足といっても普通に歩くのと大差はない。ずらっと並んでいる菓子を眺めながら、佐久間が問う。
それも当たり前の問いで、学校へ菓子を持ち込むことなどそれなりに律儀で有名となった帝国学園には考えられないことだったのだが、茉莉沙がさらりと返す。
「大丈夫だよ、もう監督には許可とってあるしー」
「『雷門が来るのだから丁重にお持て成ししとけ』って言われたからねえ」
來紗が続けてそう言う。それって勝手に監督が言ってるだけじゃねえのかよ、と少々の疑問を覚えつつ佐久間が茉莉沙に歩み寄る。商品棚に並んだ菓子は、小さなコンビニのため種類が豊富と言うわけではない。
「そんじゃ、自分らはジュース見に行きますか」
むーと唸りながら商品棚と睨めっこする二人を見て、來紗が不動を促す。めんどくせーと既にここに来ているに関わらずぼやく不動を來紗が軽く小突く。
そしてジュース売場のほうへと脚を運ぼうとした時、コンビニの扉が開いた。冷え切っていた店内の空気が蒸し暑い外の空気でかき回されるのを感じながら、ほぼ反射的にそちらへ目を向けた。
「……あ」
入ってきた人物を見て、思わず來紗がぽつりと洩らす。不動はきょとんとした表情になり、恐らくリアクションが一番大きいであろう茉莉沙と佐久間は入り口からは死角となっている菓子売場にいるため気付いてはいない。
「雷門のやつら来ちまったじゃねえか」
不動の言葉で、茉莉沙と佐久間が商品棚の脇から顔を出す。入り口には、円堂と鬼道と風丸と彩華が、どうやらそちらも帝国組に気付いたようで顔を見合わせていた。何故ここにいるんだ。両方共が恐らく持っているだろう疑問を告げる者は誰もいなく、一瞬の間の後佐久間が言う。
「……鬼道達、なんでいるんだ?」
商品棚の脇をすり抜け、雷門の四人のほうへと歩み寄る佐久間。茉莉沙もそれを追い、佐久間と不動と來紗と茉莉沙が綺麗に一列に並ぶことになる。今客が来たら入りづらいだろうなあとくだらないことを考えつつ、鬼道が佐久間の問いに答えた。
「円堂が何か持っていったほうがいいんじゃないかって言ってな」
「え、コンビニで買ったやつを?」
鬼道の少々呆れがちに返された言葉に、來紗が思わずといった様子で言葉を洩らす。そう思うのは当然のことだろうが、今の場面でそれを口に出していいかと聞かれれば微妙なところである。
ほら、やっぱそういわれたじゃん。どうやらもうその疑問がわきあがるのを察知していたようである風丸が、苦笑いを浮かべながら円堂に向かってそういった。
「ん? 駄目なのか?」
「……円堂さん、例えば誰かお客さんが来た時にその人が『手土産です』といって安物の板チョコ一枚渡されたらどう想いますか?」
円堂らしい返事に、彩華が控えめにそう尋ねた。円堂はその問いに約十五秒ほどの時間を費やし、笑顔を浮かべて元気よく彼らしい答えを述べた。
「そりゃ、くれたんだし食べるけど」
「……円堂、まずお前の価値観じゃなくて世間という価値観から考えてくれないか」
まさに円堂の象徴とも言うべき能天気な答えに風丸が突っ込む。目の前で繰り広げられる漫才のような会話に少々呆れつつ、佐久間は胸中でぼんやりと思った。
何故そんな気持ちがふつふつと湧き上がってきたのはわからないほど、その気持ちは曖昧で非常にぼんやりとしており、はっきりとした形を持っていなかった。何か大切なことがあったのに、ふとした動作で忘れてしまった時のような、ありありとわかる忘却感。
「(——平和、だなぁ)」
どうして今更そんな感情を抱くのかはわからなかった。一ヶ月前まで宇宙人やらなんやらと騒いでいたせいかもしれないが、彼には今の日常がやけに平和に静かに感じられるのだった。
どうやらそんなことをぼんやりと感じているのは彼だけではないらしく——不動も、どことなくそんな表情を浮かべていた。
「(平和、ねえ……)」
ぽつりと、今度は自分自身に問いかけるような口調で、佐久間は心の中で呟いた。
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