二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- >>210より“鳴り止まない雨音は、嘘も真実も隠して” ( No.211 )
- 日時: 2010/09/08 19:07
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
「アツヤ君、は?」
控えめに囁かれた彼女の言葉は、全てを崩壊させるのに十分すぎた。
<エンドレスループ>
彼女は僕を頼れる少々気の強いリーダー格と見ていて、けれどそれは僕ではなかった。僕ではなく、アツヤだ。
たまに現れるアツヤのことを彼女は見ていて、アツヤではない僕は常に彼女に拒絶、そして否定されていた。
『士郎君? 違うよ、ねえ、士郎君はアツヤ君だよね?』
わけのわからない、道理に全くかなっていない言葉を彼女は紡ぎ続けた。
そんな彼女が、無性に愛おしかった。
*
「ただいま、みんな」
本当に、久しぶりだ。何ヶ月ぶりなのか、正直はっきりとは記憶していない。久しぶりだと、本当に長い間だったと、そんな感じに曖昧としかわからなかった。
それに、みんなと会えなかった長い日数を、時間を、今更数える気には到底なれなかった。
僕は、帰ってきたのだから。
「お帰り、吹雪君!」
僕の姿を見つけて走ってきて、笑顔でそういってくれた紺子ちゃん。久しぶりで、とても懐かしくて、自然にふんわりとした笑顔が顔に広がっていくのが分かった。
グランドにいたみんなが、走ってくる。嬉しそうに、顔いっぱいに笑顔を浮かべて。僕の存在は、やっぱり認められていた。みんなは、僕との再会を喜んでくれた。
でも彼女は、喜んでくれなかった。
「久しぶり、吹雪!」
「おかえり。色々とお疲れさま」
「ねえねえ吹雪君、話聞かせてよ!」
「宇宙人ってさ、どんなのだった?」
四方八方から飛んでくる言葉や疑問は、頭の中をなめらかに滑ってどこかへ飛んでいってしまった。
僕のマフラーが無いことに気付いただろう彼女は、ゆっくりとした足取りで僕のほうへと歩いてきた。
とはいえ酷く距離があり、周囲をぐるっと囲んでいるみんなの、向こうの向こう。喋れる距離でもなければ、表情を交し合える距離でもない。なんというか、無駄に長い距離だった。
「〝死んじゃえ〟」
それでも僕には、そんな彼女の口の動きが凄くよく見て取れた。彼女が小さな声量でその言葉を発しているということも、ぼんやりとわかった。彼女が目にいっぱいの涙を溜めていることも、拳を握り締めて震えているのも。
それもこれも、全部僕のせいだということも。
*
「珠香ちゃん、」
「しろーくんはその名前で呼ばないで」
その日は、酷い雨だった。僕が帰ってきてから二日後の学校の放課後、僕は珠香ちゃんに呼び出されて酷い雨音の中刺々しい、なんというかひたすらに居心地の悪い会話を古びた教具室で交わしている。
三年ほど前までは使われていたらしい教具室は、今となってはすっかりと物置へ変化してしまっている。しかし掃除は大雑把にでも行われているのか、埃があちらこちらに散乱しているということは無く、小奇麗だった。
あっけなく一蹴される僕の珠香ちゃんを呼ぶ声は、何度発されただろう。また、僕は何度発しただろう。覚えてない、知らない、わからない。わからないならどうでもいいや。
「……アツヤ君は、どうしたの」
君の大好きなアツヤは、もうどこにもいないよ。いっそ笑顔でそういってしまいたかったけれど、さすがに僕にはそこまでする度胸は無い。いえたら、楽なんだろうけど。
珠香ちゃんが愛しているのはアツヤであって、僕ではない。けれどアツヤは僕が作り出した仮初のアツヤであったわけで、そのアツヤは僕でもあるわけだ。人格なのだから。
早い話、珠香ちゃんはもうこの世にはいない僕の弟に恋しているということで。とはいえそれだけの言葉では片付けられなかったりするから、余計に面倒で。
「アツヤは……もう、いないよ」
俯きげに、できるだけ珠香ちゃんの表情が見えないようにして言った。僕の人格であるアツヤに珠香ちゃんは恋していて、けれどもそのアツヤは僕の死んだ弟で、そして僕はもう吹っ切ってしまったから。
大好きな、珠香ちゃんの大好きなアツヤは、もうどこにもいない。元々アツヤである僕を好きになったのだから、僕を好きになったのと同然かもしれない。まあ、性格やら口調やら凄く違うし、拒絶されるのも無理は無い。
「どこ行ったの? じゃあ、アツヤ君はどこへ行ったの? 知ってるんでしょ、士郎君」
だから消えたんだよ、珠香ちゃん。なんの比喩でもなく、死んだわけでもなく、消滅したんだよ、アツヤは。
どこへ行ったの? どこへも行ってない、僕らとずっと一緒にいるんだよ。けれども僕はアツヤがいる場所を知らないし、前みたいに会話もできない。アツヤという人格は、僕という存在から消え去ったから。
「士郎君、ねえ答えてよ。アツヤ君は、どこにいるの? アツヤ君に会いたい、会いたいの」
珠香ちゃんって、こんな子だっけ。僕の知ってる珠香ちゃんは、もっと純粋で無垢で無邪気で優しくて笑顔の可愛い明るい、人に無理強いしたり無駄だとわかっている行為を繰り返す子ではなかった。
望んでいる。珠香ちゃんは、きっと僕の中にアツヤが復活するのを望んでいる。つまり、アツヤを必要としている。そして僕は、必要とされていない。
悲しいような、辛いような。それらの感情は、まあ僕が——僕、吹雪士郎が珠香ちゃんのことを好きだから余計にこんがらがって複雑になってしまっているようで。
面倒だなぁ、と思う。どうすればこのごたごたを終わらせれるのだろう。なんて考えてみたけれど、答えなんて出るはずもなく。わーっと叫びだしたい気分だった。ぐちゃぐちゃな感情が、混ざり合って融けていく。
「士郎君……っ!」
「……アツヤは——『ここにいるさ』」
もう、いないんだ。そう続けようとした言葉は、ぶつりとダレカの言葉によって遮られた。否、ダレカじゃない。誰かなのかはわかっている。僕自身の言葉なのだ。
けれど、僕であって僕自身ではない。つまり。つまり。確かに発したのは僕だけど、でもそれは僕の意思じゃなく。
まるで、アツヤがいた時のような——
「……アツヤ君! やっぱり、アツヤ君はいた、帰ってきてくれた!」
暗、転。
(さよなら、さよなら。)
+
さて、題名にもあるとおり>>210よりryなのに最初からだいぶ話がずれてしまったwwwずれすぎだろ俺www
意味わからんwww いや、最初はですね。最初はですね、最初はですね!
吹雪が白恋へ帰る⇒「アツヤはどうしたの?」⇒「いるよ」⇒いないけど、みんなとアツヤはずっと一緒。
みたいな感じで書こうと思ってたんですどうしてこうなったwwぶはww
つくづく計画性のないヤツだと思い知りました。