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二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- いびつななみだ ( No.213 )
- 日時: 2010/09/08 21:26
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
(大好きさえも言えなくて)
「ねぇ、明王」
「……んだよ?」
ぼんやりと半ば意識を手放そうとしながら活字を目で追っていた明王は、ふと耳に投げかけられた忍の言葉に気だるそうに返事をした。ふあ、と伸びをしながら欠伸をする。
小さく、ぽつりと。呟くように、囁くように。風が吹けば飛んでいってしまいそうな彼女の続けられた言葉を、しかし明王はしっかりと耳に聞き留めていた。
「『好き』とは言ってくれるけど、『大好き』とは言ってくれないね」
予想だにしなかったいきなりの言葉に、明王は少々面食らいながら活字の群れから目を離し、隣に座っている忍へと目を向けた。そして思わず、絶句した。
泣いていた。笑顔で、けれど嬉し泣きとかそんなものじゃなく、切なげな笑顔で。涙が笑顔をかき乱して、今にも崩壊してしまいそうな口元の笑みが大きく歪んだ。
やがて小さな嗚咽が洩れて、忍はそれに気付いて慌てて俯いた。頬には赤みがさしていて、しかしそれは涙で全て隠れてしまう。ごしごしと服の袖で涙を拭い、けれどもそれが意味を成すことは無かった。
(抱き締めることしかできなくて)
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