二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

破壊 / 風丸 ( No.253 )
日時: 2010/10/15 19:01
名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

    ( 破壊 )

 消滅しかないと、ただ嘆いた。もうどうにもできないんだと、今の俺には無理なんだと。辛かった。苦しかった。でも、嬉しかった。人から頼りにされて、凄く嬉しかったんだ。
 それでも辛い苦しい嫌だと思ってしまうのは、その重さに耐え切れないからで。けれど頼ってもらえること自体は嬉しいことで、だけどそのことへの施しが不届きだと自己嫌悪のループして。
 パッと消滅してしまって、何も無かったようにできないだろうか。俺は元から存在せず、俺がいない歯車の噛みあった日々が流れていく。そうなければ幸せだと、ぼんやりと思った。
 けれどそんなこと無論できるわけもなく、だからというわけではないがなんとなく、言ってみた。
「俺、サッカーやめるよ」
 きっとそうすれば、この重圧から解き放たれるだろうから。もちろん円堂は信じられないといったような顔をしていたし、どうしてと何度も問いかけられた。俺の気持ちは、揺るぐことはないのに。
 “陸上に戻るのか”。そう問いかけられた。恐らく“そうだ”と答えたら“じゃあ、仕方ないな”と引いてくれるだろう。円堂はそういうヤツだと、俺は身に沁みて知っている。
 けど俺は、そんな返事はしなかった。ただ否定の言葉を、“違う”とだけ言った。もちろんそれで円堂の問いかけは余計に強まったし、どうせなら陸上へ戻ると答えたほうが楽だったと思う。
 俺がそうしなかったのは。円堂に、嘘はつきたくなかったからだった。正直、円堂から“もっと強くなるにはどうすればいいだろう”“どうしたらじいちゃんの究極奥義は完成するんだ”などと助けを求められる多々の言葉には、微かな限界を感じていた。どうして俺に聞くんだ、俺には的確なんて指示もできないのに。
 でも、円堂は大事な幼馴染だから。今までずっと笑いあってきた、大切な仲間だから。騙すことだけは、したくなかった。“エイリア石が原因なのか”。そうとも、尋ねられた。
 大半の理由は、恐らくそれが占めている。サッカーをしてしまうと、どうしてもエイリア石に手を出してしまったときのことがフラッシュバックする。自己嫌悪に囚われてしまい、自傷行為に走りたくなる。
「サッカーをやめると、決めたんだ」
 もう、他の選択肢はない。陸上に戻ることも、ない。今はとにかく、ゆっくりとしていたかった。何からも期待されることもなく、努力することもなく、ただ平凡に穏やかに。ゆっくりと。
 果たしてその選択が、大切な何かを破壊してしまうのかもわからぬまま。





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雫ト灯とかいうヤツの設定。ぷらす、今の気分で。