二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 壊れない夜を歌う ( No.27 )
- 日時: 2011/02/18 17:58
- 名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
ねえ、ウルビダ。君は今、何を考えているのかな? ウルビダのシュート——というのが正しいのかはわからないけれど——見たよ。
やっぱり、納得いかないよね。いくはずがないんだ。何故? 結局俺達は、使い捨ての道具だったの?
父さん。
父さんは今、何を思っていますか?
* * *
ねっとりとした気持ち悪くなるような感触の血も、ウルビダのモノだと考えればどうってことなかった。
むしろ、触れているのが嬉しいぐらい。ぴちゃぴちゃと雨が降るように滴り落ちる心臓部分からの流血で、手のひらが真っ赤に染まっていく。
今はもうウルビダの頭を乗せている自分の膝も血で塗れていて、最初は真っ赤だったけれど徐々に酸化しているのがどす黒くなっていく。
何もいわない、ウルビダ。
ぴくりとも動かない。
温もりなんてない。
目を閉じて死んでいる、ウルビダ。
心臓部分からは、先程突き立て引き抜いたナイフのせいで血がどくどくと溢れ出している。
彼女の命を奪ったナイフは、血でどろどろに塗れて横にほっぽってある。
「……父さん」
何故、父さんは。俺達が負けた、それだけでこのジェネシス計画をすぐに破棄したんだろう。
あれだけジェネシス計画というモノに依存していた父さんが、少しの説得で何故折れた?
結局父さんは、悪人になれきれていなかったんだ。多分、それだけ。それ以外に、理由は無いと思う。
それとも、使っている俺達に悪いと思っていたから? もしそうなら、俺はきっと父さんを許さない。
なんのために父さんに尽くしてきたんだ。俺達は、そんな生半可な気持ちじゃなかったのに!
「ねえ、ウルビダ」
父さんは捕まり、残った自分達は施設に移されることになる。施設、しせつしせつ施設!
施設で思い出すのは、昔の父さんのこと。でももう、父さんはいない。自分達を、捨てた。
違う、捨てたんじゃない。そう、わかっているんだ。捨てたわけじゃない。
それでも、もう俺達は終わりなんだ。これから友達でいれたとしても、きっとそれだけだ。
今までのように、ずっと一緒にサッカーしていくわけじゃない。
「寂しいよね。みんな、もう離れ離れになっちゃうんだろうね」
なんで、自分達がこんな目に? どこまでも父さんに尽くしていくと決めた、はずなのに!
どうしようもない無力感だけが、体と心を満たしていた。不思議なことに、満たされていた。
しかしそれが酷く空しいものだということに、気付いている。
——離れ離れなんて、嫌だ。
ずっと一緒にいたかった。きっと、あのままだとずっと一緒でいれたはずだ。
ねえ、ウルビダ。君も、後悔していないと思う。これで、ずっと一緒になれるんだから。
すぅ、とウルビダの青白い生気の全く無い頬を撫でる。酷く、冷たかった。
それを確認した瞬間、目の奥から熱いものがこみ上げてきて——ぽつ、と涙が零れた。
寂しい。寂しい。どうしようもなく、寂しい。ああ、もうウルビダのところへいこう。
ウルビダがいないなんて、俺にとってはずっと夜なのと同じだ。ウルビダがいたから、朝が来て昼が来るような、そんな感じがした。
きっと、それほどまでに好きだったんだと思う。でも、これからは大丈夫。
君がいなかったら夜だけど、だったら俺もいなくなればいい。夜の中で、愛を歌おう?
陽の無い、静かな二人だけの夜で。
ああ、いつまでもこうしているわけにはいかない。……けど、その前に。
「愛してる」
まだ生温い、血でまみれた上半身を起こし、そっと背中に腕をまわして抱き締めた。ぎゅう、って。玲名の細い体は、それだけで折れてしまいそう。どんどん冷たくなっていく玲名の体は、死というものをありありと物語っていた。嗚呼、玲名の体を抱きしめるのもこれで最後になるのだろうか。最初で最後に、なってしまうのだろうか。……いや、きっと、そうはならないと思う。
死んでも、またきっと向こうで会えるだろうから。というか、もともとそれが目的だったんだから。
向こうで、ずっと一緒にいよう。誰にも邪魔されず、ずっとずっと一緒に。
ねえ、父さん。
父さんのこと、殺したいほど憎んでるよ。
ねえ、ウルビダ。
これからは、ずっとずっと一緒だよ。
一緒に、壊れない夜を歌おう?
(壊れない夜を歌おう、君と一緒に。)
- 壊れない夜を歌う