二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 稲妻の鳴る頃に / 崩壊パラドックス ( No.318 )
- 日時: 2010/12/22 23:13
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
来た。
息を呑む。正常に流れていた血液が一気に固体になり、体中が膠着していくかのように感じた。ひゅ、と喉から細い吐息が洩れた。殺らなければ、殺られるのだ。躊躇うな、一瞬で躊躇えば終わりなのだ。
脳が白で埋め尽くされていく。ああ混乱しているのだと、今さら怖気づいてきているのだと、ぼんやりと把握した。こんなことじゃ駄目だろう、活を入れるために頬の内側の肉を噛んだ。突き刺さるような痛みが灼熱して、バットを握る手に力がこもる。
痛みという刺激により、いくらか思考がはっきりとしてきた。起こすべき行動は、脳に刻み付けてある。風丸を先に行かせさえすればいいのだ。先ほどまで学校だったのだ、武器など調達する暇は無いだろう。そして後ろから殴ってしまえば、全て終わるのだ。
「……えん、どう」
眼前からか細い声が聞こえてきた。風丸の、酷く聞きなれた声。しかし今はそんな声も、濁ったノイズにしか感じられない。俺を視界にとらえた風丸はやはり先を行くことなく立ち止まり、伺うようにこちらの様子を観察していた。いらつきと恐怖が、交錯して。思わず、声を荒げた。
「……なんなんだよ。部活は、やってこなかったのかよ?」
学校を出てから、風丸が部活をせずに俺の後をついてきていることはとっくに知っていた。今さらこんな言葉は野暮なものだが、けれどこの言葉から一気に捲くし立て風丸を先に行かせることはできるはずだ。
「いや、だって……全員揃ってないと、楽しくないし」
「言っただろ。しばらくは部活しないって。俺抜きでやれよ」
予想していた通りの言葉が、風丸から発せられた。予め用意をして答え——別に偽りなどない——を、つらつらと並べ立てた。早く先に帰れよ。そして早くあの山道にたどり着けよ。そうすれば、全て終わるのに。
『早まらないで、円堂君』
不意に、瞳子さんの声が頭の中に響く。もう駄目です、殺される、殺らなきゃ殺られる。そう泣きながら訴えた時だったか、そういわれた。何とかすると瞳子さんは何度も言った。でもそれだと、間に合わないのだ。俺はまだ死なない、死んでやるものか。
「……先に行けよ。ついてこられても困るんだ」
あの人通りの全く無い、通学路としか使われて無いあの道までたどり着けば。あそこで殺せば、誰かに目撃される可能性はほぼ皆無だ。だから早くそこまで行けよ、もうこんなのは疲れたんだ。精神がすっかり疲労しきってしまっているのは、とうの昔に手に取るようにわかっている。
「……バット、離してくれないか」
「は?」
「それ持ってると、なんだか殴られそうなんだ」
引き攣った、果たして冗談交じりなのか察しのつかないひりついた笑みが風丸の口元に浮かんだ。殴られそう、じゃなくて殴られるんだよ。心の中でそう答えてから、バットを地面に放った。
「ほら、行けよ」
そうせかすと、俯き気味に風丸が歩き出す。風丸の速さなら、いきなり走られれば俺が全速力で走っても追いつけないだろう。だからできるだけ、警戒させないほうがいい。否、バットを持っている時点で警戒はさせまくりだ。とはいえ俺が、バットを持っているだけで人を殴るという認識をされているとは思えない——素振りで腕力を鍛えるため、というGKらしい理由を用意したのだから。
「……一つ、聞いていいか?」
不意に風丸が立ち止まり、消えそうな声でそう尋ねてきた。これで風丸と話すのも最後なのか。そう考えると早く行けとせかす気もなくなって、「なんだよ」とぶっきらぼうに返答を待つ言葉を返していた。
「……しないよな、転校。円堂は、しないよな?」
風丸は振り向くことなく顔も上げることもなく、ただ少し体を震わせて、そういった。〝転校〟——まるで麻酔のように、じんわりと脳髄をその言葉が侵していった。
あのバットの持ち主が、アイツの兄が、転校——もとい、消されたのだ。
「絶対にしないよな、円堂」
まるで責めるような口調で風丸がそう続け、風丸がゆっくりと顔を上げながら振り向いた——。
2(崩壊パラドックス)
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色々と設定変えてあります。原作とは少々ストーリー違います。