二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- それでも世界は廻るのだ / 小鳥遊・若干たかふど ( No.350 )
- 日時: 2011/02/07 02:57
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
- 参照: 小鳥遊ちゃんが女の子の日なだけのお話。
@それでも世界は廻るのだ
指先が酷く悴んで、まともな感覚がない。熱いような冷たいのような、不思議でむず痒い温度が指先をのっぺりと包み込んでいる。関節は錆びてしまったのかようになめらかに動かず、拳の開閉をしてみるもぎこちなさしか生まれなかった。こんな手じゃ、メールさえも打てやしない。はあ、とひとりでにため息が洩れた。どうしてこんな冷え込む日に限って、手袋とカイロを家に忘れてきてしまうのだろう。馬鹿というか、情けないというか。嗚呼、朝のストーブの前でぬくぬくとしていた愚かなあたしを思い切り罵ってやりたい。そして今の寒さを全力で送り込んでやりたい。鳥肌は大合唱どころか大絶叫していて、自分で自分がとにかくいたたまれなくなった。
誰かの温もりが欲しいとか、カイロが欲しいとか、布団が恋しいとか、そんな今叶えられることがない思考だけが脳裏を横切っていく。どうして帝国のユニフォームはこんなにも通気性が良いのだろう。おかしい、おかしすぎる。長袖のユニフォームを作ってくれたっていいのに。みんながぼやいているように、心内で投げやりに呟く。
嗚呼——どうしてこういう時に思い出すのは、アイツのことばかりなのだろう。果たしてあたしがアイツに好意を抱いたことなどあったか? ずっといがみ合って、馬鹿みたいに敵対心をむき出しにしていたような気がする。気に掛けることは何度もあったが、どうしてもそれ以上にはならなかった。それはこれから先も一緒で、きっとなることはない。なんだか、断言できるような気がする。理由なんてわからないけど、まあ勘だ。勘なんてほとんどあたることはないけれど、別に勘で物事を決めたっていいじゃないかと思う。
「あーもーばっかやろー」
誰に向かって言ってるんだよーう。ていうか今アイツのことを思い出すってことは、アイツの温もりが欲しいとかそういうことなのか? 別にいやらしい意味じゃなくて、抱き締めてもらいたいとか、そういう類のことなのかもしれない。ありえない、ないない。脳がそう言葉にするように伝令を飛ばすが、なぜかそれは言葉になることはなかった。イコールそれは、あたしがアイツに抱き締めてもらいたいと——噛み砕いていえば好意を持っているということになるわけだ。ああもっとありえない。今度はちゃんと、口に出た。
きりきりと痛む腹部を庇うようにして膝を抱えて、何か固く重いものが埋め込まれたかのような腹部をうとましく思う。こういう寒い時こそ、運動するべきだ。なのにそれを邪魔する女の性というものは、ひたすらに邪魔で不要なものでしかない。
「……ばかやろー」
ばかやろう。神様にばかやろう。女をこんな風に作ったヤツにばかやろう。あたしを煩わせるアイツにばかやろう。冬にばかやろう。ユニフォームにばかやろう。朝のあたしにばかやろう。ああ、この世界は馬鹿ばかりだ。