二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- る、ら、ら。 ( No.359 )
- 日時: 2011/02/18 21:16
- 名前: 宮園 紫奔 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)
たとえば、ふと思う。今すぐに絡められたこの指を解いてしまえば、私達の関係はどうなってしまうのだろうか、と。
夏彦はどうするだろうか、果たして、どんな行動に出るのだろうか? 予測なんてできなくて、また、したくもなかった。
嫌われるのだけは嫌だ。それだけは明白にわかった。たとえ別れてしまったとしても、嫌われるのだけは。なまぬるい、友達以上恋人未満の関係でいられればいい。
それ以上は望まないから、せめて、できるだけそばにいさせてほしい。
この指を解いてしまえば。結局それを思考するだけ思考して、私は結局そんなことしないのだった。そして、由紀、と彼が私の名前を呼んでくれるだけで、私はそんな思考なんてきっぱりと忘れさってしまうのだ。
(ねぇ、好き。)
†
甘酸っぱい、なんていったら気持ち悪い。かといって男がときめいたとかどきどきしたとか、そんな表現を使うのも鳥肌が立つ。
だったらどうすればいいのだろう、脳内で逡巡しても、答えが出るはずがなくて。
深い青色をした綺麗な髪がはねるたび、楽しそうな笑みが浮かべられるたび、快活な声が発せられるたび、その綺麗な目と目が合うたび、すれ違うたび。
明らかな恋愛感情。それは自分も、ずっと前から知っていた。だけどただ単に何もしなかったのは、恥ずかしいからで。そして拒絶されるのが、いやなだけで。
「立向居くん?」
不思議そうにそう俺の名前を呼ぶ音無さんの声を聞いて、反射的に俯いていた顔があがった。
きょとんとして俺の話とやらを待つ音無さん。結局考えていた言葉とか必死に固めていた決意とかはすぐに流されていって、「次の練習試合、どことでしたっけ」なんていう話をしてしまうのだ。
まだまだ想いを伝えられる日は遠い。
ナレーター風に、心内で呟いてみた。
(どぎまぎ)
†
ひゅ、って足元をすくわれて。気付けば、上半身が宙に投げ出されていた。あれ、と突然の浮遊感に思わずのんきに声を洩らす。
世界がさかさまにひっくり返り急速に回転して、白っぽい天井だけが一瞬掠め見えた。
だん、と背中から床に落ちる。強い衝撃と鈍い痛みが脳天を揺らして、ついでに背中や四肢を駆け抜けた。
それらに顔を顰めながらなんとか膝をついて立ち上がった俺に、ウルビダが一言。
「レーゼはまだまだ弱い」
(きみが強すぎるだけ)
†
「たかなしちゃん」
いつもみたいにそう囁いてみると、返ってきたのはやわらかく緩んだ視線だった。
きりっと引き締められた目元は綺麗にほだされていて、見ていてひどく気持ちがいい。
純粋に可愛いと、そう思った。本人に告げれば、きっと殴られるか蹴られるかしてしまうのだろうけど。
でもそれも照れ隠しだと思えば、ひどく可愛らしいことだ。
「不動」
歌うようにして小鳥遊ちゃんが言った。
何故だろうか、彼女はまだ俺の名前を呼んでくれたことはない。付き合って、一ヶ月は立っているはずだけれど。
その理由を尋ねたことはない。面倒だから。そんな無駄な二酸化炭素を吐き出すぐらいなら、愛の言葉を吐き出したほうがマシかと思う。
愛の言葉なんてそんな愚かなモノ、俺は絶対形にしないけれど。
(だって言ってくれないから)
†
たおやかに微笑む彼女の笑顔は、一種の中毒性さえも感じさせた。
嗚呼、その笑顔をずっと眺めていたい。さすがに携帯の待ち受けに、なんてことをしたら気持ち悪いが。
透き通った、何もかも見透かしたようなその声音。耳によく馴染んだ、さわりのいい声質。
「ガゼルさま」
それが本名で無いとしても、なんとなく浮かれてしまう。
どうしてクララの声はこんなにも綺麗なのだろう。
そんな感情と一緒に、本名を呼んでもらいたい気持ちが沸いて出る。嗚呼、こんな計画さえなければ今もずっと幼い頃のような関係を続けてこられたのに。
上下関係すらもついてしまい、敬語が当たり前になって。
みな、幼い頃の面影をかすかに残すだけになって。
「ねぇ、風介」
それでもクララが私の思考を読み取るのが上手いということは、変わらなかった。
(永遠に)
†
放っておけない。厚石茂人はあたしにとって、弟のような存在だ。
病弱で、控えめで、消極的で、頼りなくて。
でもなぜかたまに凄く格好いいところを見せたりして、反則だと思う。
それに歳月を重ねるにつれ、病弱も直ってきて。
消極的なのは変わらなかったけれど、優しさとかあったかさとか、そんなものがだんだんと馴染んでいった。
「……杏?」
温厚で無駄にお人よしで、またどんどん放っておけない存在にもなった。
けれどいつしかあたしは茂人にたしなめられるようになったりもして、弟という存在ではなくなった。
昔はそんなことなかったのに、行動の節々に茂人の性格が——つまるところ優しさとかそんなのが、顕著に現れるようになった。
本人は意識をしていないらしく、それがまた憎らしい。
「なによ」
「怒ってるの?」
ああ、あたしは不安でたまらない。
どっかの尻軽な女とかに騙されやしないかって、悪質な詐欺とかにひっかからないかって。
やっぱりまだ茂人には、弟でいてもらわないと困る。
「少しね」
でもそれも、できない。
(もう成長しないで)