二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

今日もあなたに嘘をつく ( No.66 )
日時: 2010/07/15 20:26
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

『……佐久間か?』

 携帯電話の向こうから聞こえる、鬼道さんの声。最近は毎日電話しているけれど、全く顔は見ていない。
 というより、俺のほうから見せていないんだけれど。雷門のほうへ行ってしまって、それからずっと。
 たまにはやっぱり逢いたいなぁ、なんて思うこともあるけれど——逢っちゃ、いけない。
 
 俺は、決めたのだから。

 あなたを越してみせると、決めたのだから。

「はい、鬼道さん」
『……本当に、大丈夫なのか』

 思わず顔が綻ぶのを感じながら小さくそう言うと、鬼道さんの明らかに心配している声が返ってきた。
 俺を、心配してくれている。やっぱり鬼道さんは、優しい。前までの——帝国学園にいて、俺達を引っ張ってくれていた時のあなたと変わらない。
 あなたの優しさは、何処へ行っても変わらない。ねえ、鬼道さん。

 あなたの強さは、変わりましたか?

 きっとあなたのことだから、もっと強くなっているんだろうと思います。あなたの優しさが変わらないのはとても嬉しい。ああ、やっぱり鬼道さんは俺達のキャプテンなんだ、って思えるから。
 でも、できれば強くなって欲しくないなー、と勝手に思っています。身勝手かもしれないけど、ちゃんと俺なりの理由があります。
 といっても、その理由自体が身勝手なんだろうと思います。

「もちろんですよ。心配しないでください」
『でも、——本当にどうしたんだ? 佐久間が家出なんて……』

 本当は大丈夫じゃない。心配だってしてほしい。それに、家出なんて真っ赤な嘘だ。
 ああ、何回目の問いだろう。鬼道さんはやっぱり俺のことを心配してくれて、理解しようとしてくれている。
 嬉しい。今すぐにでもすぐに帝国学園に帰りたい。仲間に逢って、それからあなたに逢いに行って。
 あなたはなんて言ってくれるだろう。でも、きっとあなたのことだから最初は俺を叱ると思う。
 “あまり心配を掛けさせるな”って。まあ、俺にとっては嬉しいだけの言葉だけれど。

 けど、今逢うわけにはいかない。

 逢ってしまうと、今までしてきたことが全部水の泡になる。

 耐えた。どんなに辛い練習も、どんなに厳しい言葉を掛けられても。

「……大丈夫です。きっとすぐに、帰りますから」
『本当か……?』

 あなたを越すためには、こうするしかないんですから。

 どこまでも成長を続けていくあなたに追いつくためにはこうするしかない。そうだと思いませんか? ねえ、鬼道さん。
 源田は賛成してくれましたよ。いえ、幼馴染だからこそ話せただけですけどね。
 他のメンバーには話してません。仲間だし、大好きだけれど——理解してくれるか、わからなかったから。
 やっぱり、俺って身勝手ですね。別にそれでもいいんです。

 あなたに、追いつくことさえできれば。

 もう少し。後少しで、あなたに逢える。あなたと、戦うことが出来る。
 今から勝てると、不思議とそう思えてきます。多分、俺達に力を与えてくれている、この石のおかげです。
 どれだけ疲れても。どれだけ怪我をしても。倒れることも、何度もありました。でも、それでも——

 あなたに追いつきたいんです。

 ねえ、今の俺に鬼道さんはなんて言ってくれますか?

 心配かけてごめんなさい。でもここで『大丈夫じゃない』なんてことを言ってしまったら、全て終わり。
 あなたに追いつくことができなくなる。しかも余計にあなたに心配をかけるだけ。
 そんなの、俺の望むことじゃない。だから、俺は今日もあなたに嘘をつきます。


「——本当に、大丈夫ですから」


 もうすぐ、逢えます。

 だから、待っててくださいね。


 きっとあなたを、越えてみせますから。




(光る星に手を伸ばす)
  (届きそうに無ければ届かせればいい)
    (自らの力じゃなく、道具に頼ってでも)






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