二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

君は明日も気付かない ( No.74 )
日時: 2010/07/16 21:28
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

『——本当に、大丈夫ですから』

 知っている。佐久間が大丈夫じゃないことなんて、わかっている。家出なんて、嘘だということも。
 けれどどこにいるかなどわからず、佐久間が無事ということを確かめるためには毎日電話するしかない。
 最初——一週間前に電話をもらった時は、本当に家出だと信じていた。
 何故したのか。聞いてみたが本人が『大丈夫』だというのであまり深くは追求しなかったが——大丈夫なはずがない。
 
 帝国学園から、禁断の技の秘伝書が盗まれたのだから。

 佐久間。本当にお前は、俺が気付いていないとでも思っているのか?
 何が目的なのかはわからない。秘伝書を盗んで何をするつもりなのか。
 盗まれたのは、シュート技の『皇帝ペンギン一号』とキーパー技の『ビーストファング』。
 源田も佐久間と一緒にいるということを考えれば、まず二人が何をしているのかぐらい容易に予想がつく。

 なあ、佐久間。

 お前はなにが目的なんだ?

 禁断の技——使えば体が破壊され、サッカーが出来なくなるかもしれないということは知っているはずだ。
 なのに、何故? どうして今更。まさか、世宇子にもう一度戦いを挑みにいくのか?
 いや、源田と二人だけではそんなことできない。じゃあ、どうして。

 何かをたくらんでいるのはわかる。

 それでも俺は、何もできない。

 苛立ちだけが募っていき、思わず拳を握り締める。手のひらに爪が突き刺さるのも構わずに。
 ぎり、といつの間にか噛み締められていた奥歯が音を立てた。不安が、心の中に穴を空ける。
 何とかしなければいけないとわかっているのに、何もできない。喪失感と歯痒さだけが、ひたすらに脳を埋めていく。

 佐久間との会話を終えてずっと手に持ったままだった携帯電話をふっと見据える。
 きっと、佐久間達は気付いていない。俺達が佐久間達が何かを企んでいる、と悟っているのに。
 これから、後何回佐久間と電話で話すのだろう。話すたびに、俺は佐久間を騙していく。
 ずっと、ずっと。そう、明日も。きっと佐久間は、明日も気付くことは無い。
 何かが起こるまで——起こさせたくは無いが——きっとお前は、気付かない。

        * * *

 もう少し。もう少しで、鬼道さんに逢える。鬼道さんを越えることができるかもしれない。
 なんだかわくわくしてくる。鬼道さんに逢える喜びと、鬼道さんと戦える楽しみがぐちゃぐちゃに混ざり合っていく。
 そしてそのどこかに、……ちっちゃくてちっぽけな罪悪感。ああ、何で今更こんなの持つんだろう。
 自分で決めたこと。エイリア石に頼って力を手に入れる、って決めたのは紛れもない自分自身。
 
 だから、罪悪感なんて今更持ったって遅いんだ。

 後、何日だろう。三日かな。一週間後かな。早く鬼道さんに逢いたい。逢って一緒にサッカーがしたい。
 そして早く——あなたを越えてみたい。そのために、俺達はこんなことをしてるんですから。
 越えられなければ意味がない。ねえ、そうですよね? 鬼道さん。あなたなら、きっとわかってくれると思います。

 後少し。

 後少しで、俺達は——。

         * * *

 防がなければならない。何かが起こってからでは遅いとわかっている。
 けれど、起こる前に止めることはできないだろう。ならば、起こってからさらに最悪の事態になることを防ぐまでだ。
 俺は、守らないといけない。佐久間を。源田を。きっと、守ってみせる。
 サッカーができない体になんて、絶対させない。


 俺が守る。


 お前達は、俺が守ってみせる。


 また、一緒にサッカーをするために。




(彼の決意は、海に沈んだ。)




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