二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

いつもの笑顔 ( No.85 )
日時: 2010/07/20 19:47
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)

「本当に、ごめん」

 逢う度にいつもそういってくる先輩が、うざったらしくてたまらなくなってきた。
 ねえ先輩、それ何回目ですか。何度も何度も言われると、逆にいらついてきますよ。
 あー何で源田先輩ってこうなんだろう。別に先輩が悪いわけじゃないのに、別に俺が怒ってるわけでもないのに、何で謝り続けるんだろう?
 誰も謝って欲しい、なんて一言も言ってないのに。

「……先輩、もういいですよ」
「でも、本当に——」
「ストップですってば。十分ですよ、もう謝らないでください」

 いらついていたけれど、何とかぎこちなくも笑顔を浮かべて先輩に向かって言った。
 でも、と先輩がまた続けようとしたから俺は「もーっ!」と大きく声を上げて先輩の声を遮る。
 それから音楽は掛かってないけど耳に付けっぱなしにしていたヘッドホンをはずして、無理矢理に先輩に渡す。

「ね、先輩、ヘッドホンつけてください」
「……え?」
「いいですから、早く!」

 先輩は戸惑っていたようだけど、ちょっと不思議そうにゆっくりとヘッドホンをつけた。
 音楽プレーヤーの再生ボタンを押す。今俺が一番好きな曲が、再生し始められる。

 これで、笑ってくれればいいなあ。

 別に、ネオジャパンが負けたのは先輩のせいじゃないんですから。

『絶対に日本代表にするから——ネオジャパンに、入らないか?』

 “日本代表にするから”。あの時、先輩はそういって。俺はべつに断る理由も無かったから、承諾して。
 ねえ先輩、間違ってますよ。“するから”じゃないんです。頑張るのは、先輩だけじゃない。
 ネオジャパンに入った以上、俺も頑張らなきゃいけない。全ての責任が、源田先輩にあるわけないんです。
 
 責任は、みんなにあります。もちろん源田先輩にもありますけど、それは俺にもある。
 他のメンバーにも、それぞれあるんです。先輩一人だけじゃない。先輩だって、一人で戦っているわけではないでしょう?

 ね、笑顔になってくださいよ。先輩が笑顔になってくれないと、俺達練習に集中できないじゃないですか。

 先輩はしばらくヘッドホンから流れる曲をじっと聞いていて、……それから、にこっと笑った。

「良い曲だな」

 ああ、いつもの笑顔になってくれた!






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