二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

大好き症候群(ついに発症!) ( No.91 )
日時: 2010/07/21 19:00
名前: 烈人 ◆ylmP.BhXlQ (ID: WPWjN3c4)






 今は、部活中の休憩時間。誘うなら、今しかない!

「じろーう!」

 やるぞって決めたはずなのに、次郎の名前を呼んだ途端に頬がなんだか熱くなってきて、……ああもう。
 昨日の夜、たくさん悩んで。もし断られたら、って考えたら怖くて仕方なくて。
 だけど、これだけ悩んだんだったらもういいや、ってちょっとやけになりながら決めて。
 次郎をデートに誘おうって、決意して。

「……なんだよ?」

 グラウンドの上に座って源田達と喋っていた次郎が、タオルで汗を拭きながらあたしのほうに向かってくる。
 もう呼んじゃったんだから、早く言わなきゃ。黙ってたら、変なヤツって思われる。
 でも、恥ずかしい。ああもうあたしの馬鹿! 絶対に誘うってちゃんと決めたのに!

「笹本?」
「え、あ……っ……」

 わーっと悩んでいるうちに、次郎に話しかけられた。なんていえばいいかわからなくて、しかも顔が真っ赤になっていくのがわかって……思わず、言葉に詰まる。
 何か言ったほうがいいよね……? でも、何を言おう。じゃなくて、あたしは次郎をデートに誘おうとしてるんだ!
 言わなきゃ。伝えなきゃ。でもなあ……。やっぱりあたしって駄目だ。なんで決めたのに、今更臆病になってるんだろ。

「……笹本?」
「……や、やだなあ、茉莉紗って呼んでよ!」

 あれ、なんでだろ。次郎にまた話しかけられて、あたしはまだ何を言えばいいかわからなくて……。
 咄嗟に思い浮かんだことを言っちゃったけど、なんだか凄く強引な気がする。
 というか、デートよりもマシだけど結構恥ずかしいこと言ったような気がする。
 どうしよう、あたしってやっぱり馬鹿だあ……次郎、なんだか訝しげな表情してるよ。
 
 いきなり可笑しいよね。名前で呼んで、なんて言われたくないよね。

「あ……う、嘘嘘冗談! 次郎に呼ばれたらあたしの名前がかわいそーだもんね!」
「……なんだよそれ! お前は俺のこと“次郎”って呼んでるくせにー」

 無理矢理に笑顔を作って笑って、次郎に向かってそう言った。ちょっと言葉がキツかったかもしれない。
 ……恥ずかしくて何が何かわからなくなってきたかも。次郎、怒るかな。どうしよう、怖いし恥ずかしい。
 けど次郎も笑いながら冗談めかして言ってくれて、不安な気持ちは一瞬で飛んでいって——やっぱり、かっこいい。

 本当は、大好き。だから、デートに誘おうって思った。気持ちは伝えなくても、一緒に遊びたいって思った。
 次郎ともっと一緒にいたかった。恥ずかしくて死にそうだったけど、デートに誘おうって決めた。
 でも——やっぱりあたしには、無理なのかな。こんな臆病なあたしなんか、駄目なのかな。

「——茉莉紗」
「え?」

 その時、次郎の声。あたしの名前を呼ぶ——茉莉紗って呼ぶ、その声。
 あたし、次郎に名前で呼ばれた? 茉莉紗って、呼んでくれた? 聞き間違いじゃない、よね……?
 嬉しさと恥ずかしさが、波のように一気に襲い掛かってきた。できればこの場からすぐに立ち去りたかった。
 嬉しい。確かに嬉しいけど、それよりも恥ずかしい。でも、嬉しくて——ああもう、わけがわかんなくなってきた!

 次郎のほうを見ると——きっとあたしの顔は真っ赤——次郎は照れたように少し笑って、小さな小さな声で言った。


「……次の日曜、空いてるか?」


 そんな小さな声で言って。ねえ次郎、あたしが聞き逃すとでも思ってるの?




                            - 大好き症候群