二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【イナイレ】透明雲【キリリク受付】 ( No.10 )
- 日時: 2010/07/09 17:49
- 名前: 空梨逢 ◆IiYNVS7nas (ID: CCQdUj5A)
02,「えくぼの可愛い女の子」
ドドドドド……ッ
上がる水飛沫と、沈んで行く潜水艦。
己の無力さが歯痒くて、悔しくて、辛くて、
思いっきり唇を噛んだ。
血の味がする。
でも、かまわない。
頭に響いてくるのは、アイツの声で。
『明王』
『なんだよ』
少し勝ち誇ったように笑うアイツは、脳裏に焼き付いていて。
消せなくて。
『おまえコンビニ行くんだろ。アタシの好きなもん、なんでも
良いから買って来い』
『はぁ!?』
『あ、もちろん自腹でな』
真・帝国。
影山が組織した新たな帝国。
そんな中でも仲間意識はあって。
毎日、練習もしなくて良かったから自由に楽しんでて。
……まわりの奴らが想像する、暗い「帝国」じゃなくて。
なのに、なのに、
やっと手に入れた仲間は
———遠ざかって行く。
「明王!!」
アイツの声だ。
ああ、なんでまだ居るんだろう。
「明王、脱出口が分からなくて……。他の皆も、
救命ボートの位置が分からなくて、皆まだ居て」
お前らしいな。
必死な顔して、見上げて、仲間を救おうとして。
———利用する、される。
そんな事、全然知らなくて。
「南側にある」
「え、本当!?じゃあ明王も」
俺の腕を掴んで引きずっていくアイツの顔は、
幸せそうに輝いてて。
逃れられる幸福に満ちあふれてて。
「お前だけ、行け」
「……え」
一瞬の沈黙の後に、お前は目を見張った。
「なんで?皆居るんだ。明王の事待ってるのに」
「良いから」
背中を押して、送り出して。
そうだ、そうなんだ。これで良いんだ。
「だから、後のごちゃごちゃは俺が引き受ける」
お前の顔を覗き込む。
「皆と笑ってろ。悲しそうな顔すんな」
悲しむのは、悔しい思いをするのは、利用されるのは、
俺だけで十分だ。
———笑ってろ。
最後に、小鳥遊は泣きそうな顔で笑った。
確かに……あの日見た、えくぼが出来ていた。
『お前は笑ってろ、』
『せっかく可愛いんだから』
[Fin]