二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【イナイレ】透明雲【キリリク受付】 ( No.80 )
日時: 2010/08/05 14:52
名前: 空梨逢 ◆IiYNVS7nas (ID: fYNkPhEq)

10,「壊れぬように、閉じ込める」



夜の散歩は良いと思う。
何もかも闇に溶け込んで、なにも見えなくなるから。

今日は皆とサッカーをした。
円堂君が教えてくれた、楽しい楽しいサッカーを。
———総帥が教えた、強いサッカーじゃなくて。

「あ……鉄塔」

闇の中に屹立してる鉄塔。
円堂君が好きだと言っていた鉄塔。
どうしよう、登ってみようかな。


カンカンカン、と機械的な音が響く。
ここから星を見たら綺麗だ。きっと。

「うっ……。ひっく、っ……」

……ん?
誰かの泣き声、かな。これは。

気配を殺して近づく。


———見覚えのある、彼が居た。

月光を照り返して煌めく空色の髪。
自分の膝を抱きしめて、顔を突っ伏している。
微かに震える肩。

「ごめん、ごめ、ん、ごめん……。弱くてごめん、抜けてごめん……」

何かに必死で謝り続ける彼は、すごく脆く儚く見えて。
思わず声をかけた。


「……風丸君?」

びくん、と肩が跳ね上がる。
咄嗟に振り返って、僕の事を見た。

「アフロディ……」

今までずっと泣いていたらしい。
紅い瞳が紅く縁取られて揺れている。

「どうしたの?エイリア学園は?」

一番不思議に思った事を聞くと、その問いには答えずに彼は
ぽつり、と僕に質問した。

「神のアクアは?」
「……もう無いよ。捨てた」

そう言うと、風丸君は弱々しく笑った。

「そうだよな……。ダメだ、あんなのに頼っちゃ……絶対」
「……風丸君?」

「俺よりエイリアは速かった。ずっとずっと。超えても超えても、
 もう居ないと思っても速い奴は居た。俺は彼奴らに負けた。
 力が欲しいと思った。円堂を守れるように」

風丸君は一旦言葉を切ると、こっちを見つめた。

「そのためなら、神のアクアを使っても良いんじゃないかって思った」
「風丸君!」

思わず、叫んだ。
僕等が使った薬。人間の能力を限界まで高める薬。
それを使ったらいけないって教えてくれたのは君達だった。

「……そうだよな。ごめん、こんなこと言って。ごめん」

また悲しそうに笑って、風丸君は正面に視線を戻す。

「力があったら良いのに。円堂が守れるのに。
 守ってもらったんだから、ずっと守ろうと思ったのに」


風丸君は追い詰められてた。
昔の僕と被って、凄く懐かしい感じがした。

「風丸君、」
「なんでなんでなんで?なんで?なんで円堂だけが傷つかなくちゃいけないんだ?」

口走った風丸君を、強く抱きしめる。

「そんなに自分を追い詰めないで」

もうこんなに傷ついて、頑張って、
それでも追い詰めようとして。
君はもう限界だよ。

「えんど……ごめん、ごめんな。ごめん……」

風丸君の身体はすごく暖かかったけど、すごく痩せ細ってた。
翼が折れた小鳥みたいだ、って思った。

風丸君はずっと泣いていた。


  
   『堕ちた小鳥が壊れぬように、』
   『鳥籠の中に閉じ込める』


[Fin]