二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【稲妻11・ボカロ】毒砂糖【カエル様リク完成】 ( No.329 )
日時: 2010/09/06 20:00
名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

紫奔様リク続き。



「宇宙人討伐おめでとう! 帰ってきてくれてありがとう!」

 士郎君がリビングのドアを開けて入ってきた瞬間に、皆で一斉にそう言ってクラッカーを鳴らす。緊張で張りつめていた空間は一瞬で騒がしくなる。

「……こちらこそ、ありがとう」

 少し驚きの色を浮かべた藤色の瞳を瞬かせると、にっこりと天使みたいな笑顔になる士郎君。
 前と同じ。私はこんな士郎君の笑顔が大好き。どんなときでも、私の心をあたためてくれる。泣きたい時、士郎君に何度も支えられた。だから、この笑顔が失われていなくて本当によかった。

「それじゃあ、パーティ始めよう!」

 いつもは恥ずかしがりやな紺子ちゃんも、嬉しくてたまらないのか珍しく大声をだし。それを合図に、部屋が太陽の光でいっぱいになったかのような錯覚をおこすほど、賑やかになった。




 烈斗君と流君、礼文君が士郎君の周りを取り囲んで、いろいろと話をしているみたいだった。
 当然だよね。皆、士郎君を心待ちにしていて、彼がいない間起こったいろんなこと。大きいことから小さいことまで、「仲間」である士郎君に伝えたかったんだもの。
 ——なのに、いざとなると何も伝えることができない私。遠くからこうやって見ていることしかできない。うう、緊張と興奮で、いつもならできることすらできない。

「それでね、豪炎寺君が」

 きらきらとした笑顔で、楽しそうにイナズマキャラバンの人達のことを話す士郎君。
 そうだよね、士郎君の思い出だって聞かなきゃ。自分のことばっかりじゃなくて。
 そう思うと、なんだか急に自分が馬鹿らしくなった。届くわけない想いをいつまでも抱いて、そのくせ恥ずかしいからとかいって伝えることをしない。……それに、旅から帰ってきた士郎君はどこか大人っぽかった。前までも遠かった存在なのに、ますますその背中が遠ざかった気がする。
 私の思いこみなのかもしれないけど、でも、胸がぎゅうっと締め付けられるような感じがして痛かった。
ここにいることがいたたまれなくて、外の空気でも吸おうかな、と、リビングとはうってかわって静かな——私には静かすぎる——廊下にそっとでた。




 外に出るといつのまにか雪が降っていた。
 この北海道では珍しいことではないけど、灰色の雪は私の心を表しているみたいで雪への理不尽な嫌悪感が生まれる。いつも天使のような士郎君とは、やっぱり大違いだと、知らぬ間に深く沈みこんでしまっていた心の中でそう思った。
 心地よい冷気の漂う空気。喉にすうっと入ってきて、もやもやとした私の中の霧を吹き飛ばしてくれるような、そんな気がする。

「——……沙良ちゃん?」

 え、と思わず声を洩らしながら後ろを振り向くと、

「士郎君……」

 心配そうな、不安げな士郎君が目の前にいた。
 なんで、ここにいるんだろう。士郎君は皆と一緒にいた方が絶対にいいのに。

「どうしたの? 具合でも悪いの?」

 私の肩を掴んで、じっとこっちを見つめながら次々と問いかける。
 手が、とってもあたたかくて優しくて、そしていつのまにこんなに大きくなっていたのかなあ、と思いながら、だいぶ身長差が生まれた士郎君の顔を見上げた。

「ううん、平気! ちょっと外の空気が吸いたくて、それで」
「嘘でしょ? 僕にはわかるよ」

 自分でも嘘だなんてことハッキリとわかってたから、そんな脆い言葉を遮った士郎君の言葉が胸に刺さる。いつもとは違う、ちょっときつめの声だった。

「悩みがあるの? 僕に話して。できることならなんでもするよ」

 君のことで悩んでるんだよ、なんて君には言えないね。私には手が届かない天使の君には。
 それでも、いつもこうやって不安なとき、士郎君に励ましてもらったことは覚えてて。だけどだけど、この悩みなんて言えないよ。「好き」だなんて、言えないよ。


 ——消えてしまったらどうしよう。

 士郎君の顔を何も言えずに見ることしかできない私の心に、そんな一言が浮かんだ。
 消えてしまったら。また、士郎君が遠くへ行ってしまったら。もう二度と帰ってきてくれなかったら。
 私の想いは、どうなるんだろう。このまま、消滅してしまうんだろうか。士郎君に、伝えるべき相手に伝えられないまま、勇気がない私のせいで伝えられないまま消えてしまうんだろうか。

 そんなの嫌だ。

 心臓が急にばくんばくんと大きな音をたてはじめる。手足が震えている。
 これって、絶対想いを伝えるパターンだよね。流れ的に。でも、でも、やっぱり——……
 ああ、もう! 私のいくじなし! なんでもいい、伝えちゃえ!

 感情が変な方向に高まっていく。今なら言える気がした。なんでかはわからないけど、ごちゃごちゃと色々考えることを完璧に放置した今の私なら、伝えられる。

「——士郎君!」
「え、なに、沙良ちゃん……?」

 突然でた私の大声に、ちょっとビクッとなった士郎君に、
 抱きついた。


「大好き! 大好きだよ! だから消えないでね、絶対!」

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい、言っちゃった言っちゃった。
 でもいいんだもん、いいの。もうなにがあったっていいんだから! 

 眼をぎゅっと瞑っていると——頬に冷たい感触を感じた。
 なんでだろ、わかる。これ、士郎君の手だなあ。あたたかい士郎君の手が冷たく感じられるほど今私の頬熱いんだ、とかぼんやり思って——

「僕もだよ」

 
 肩にぽと、と落ちた雪が、いつのまにか真っ白になっていた。
 士郎君の笑顔は、とっても綺麗だった。


 私の想い、この雪さんが伝えてくれたのかな。




わあ終わり!

うん、我ながら酷いです。無理矢理すぎます。そもそもこんな切羽詰まった状況下に置かれたのは私の脳に責任と予定という文字がないからですね。
沙良ちゃんがちょっと真面目になりました。たまには大人な沙良ちゃんも好きです。
……というか、これ、全部一応ストーリー的に続いてるよな……

本当に申し訳ございませんでした。こんなんでよろしかったでしょうかいいわけないですね。
もう二度とこんなギリギリなことにはしません。
紫奔様、リク有難う御座いました!