二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 点滅パラノイア ( No.389 )
日時: 2010/09/21 16:59
名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)
参照: 文字オーバーにより二つに。

+*点滅パラノイア*+


 おかしいな。

 何回見ても時計の針は十時を指している。俺の目がおかしくないのであれば。
 何回見ても紙には「緑川へ 九時半にグラウンドに来い」と書かれてある。これを書いた人——玲名姉ちゃんが間違っていなければ。
 玲名姉ちゃんは怖いほどしっかりしてるから時間に遅れることなんてない。なのに三十分も遅れているなんて、どういうことだろうか。
 行き違いになっては、と今までグラウンドで待ってたけど、探した方がいいかもしれない。まず最初に行ってみるべきはやっぱり姉ちゃんの部屋だろう。

 もう真っ暗。星なんて一つも見えない、曇った夜空だ。


**


 いきなり入ったら姉ちゃんの性格からして絶対に怒鳴られるだろうから軽くドアを叩く。金属でできたドアはよく響いた。
 返事はない。
 今自分がいる空間がやけに静かなことに気付いて、身体がびくっと震えた。

「……寝て、るんだろ、きっと」

 今日の練習きつかったし、姉ちゃんみたいな人でも疲れで寝てしまうことぐらいあるさ。
 そんな風に無理矢理自分を落ち着かせて、どくんどくんと狂いはじめたリズムの鼓動を深呼吸でなだめつかせる。
 入ってもいいよな。入っても。
 銀色に光るドアノブにかけた手が固まる。動け、そう命令しても石みたいに固まってしまった俺の身体に必死に命令する。
 身体がやっと石からとけると、心に変な物体が、もやもやととけだした。



 蛍光灯の光が室内を冷たく照らす部屋に一歩入ると、噎せ返るような生々しい——血、だろうと思われるにおいが充満していた。呼吸をすると酸素と共にそのにおいが入ってきて、気持ち悪い。
 いや、気持ち悪いなんていってる場合じゃない。——なんで、血のにおいが?
 一度そんな疑問が生まれると、抑えつけられていた爆弾が一気に爆発したかのようにどんどんどんどんナニカが広がっていく。猜疑心と恐怖心。誰か助けて、そんなSOSが、圧迫された雰囲気に耐えられなくて無意識に自分の口から洩れでる。いや、そのメッセージがどこかから聴こえてくるような——。

 なんで、なんで?
 どうにか嫌な想像、——違うこれは俺の妄想だ、そう、妄想を振りきろうとしてもダメだった。止まらない。止まらない。

 とりあえず、姉ちゃんを探さなきゃ。この部屋にいないかもしれないけど、探さなきゃ。探して探して、探して——……姉ちゃんの〝姿〟だけじゃなくて〝命〟の存否を確認しなきゃ。いや、命の存否なんて、そんな重大な危機に陥ってるわけがないけど、わけが、ない、けど。


「え」

 足に何かが絡まった。ふぁさ、とした感触。
 見てはいけないと直感的に感じたけど視線はそれを無視して足の方に移動する。

 青い、髪の毛。

 綺麗な青色。綺麗で綺麗で、こんな綺麗な青って他にないだろう、そう思ってた青色。
 玲名姉ちゃんの、青色。

 どうしてだろう、視線はそこでは止まらずにその先へ先へと動く。
 ああ見なければよかった、そんな後悔しても、もう無駄だった。何もかも。

「うそ、だ」

 寒気がする青白い肌。形の整った唇は血の気を失っている。そして見開かれたままの髪と同じ青色の瞳は、間違いなく〝八神玲名〟のもの。
 玲名姉ちゃんが、倒れている。床に。赤い赤い液体を染み渡らせながら。

 なんで。

 これが何かの冗談だったら、夢だったら。
 だってだって、有り得ない。有り得るわけがない。ない、ない、ないないないない、ない!!

 
 姉ちゃんが、死んでいるなんて。