二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 嘘だらけの境界線 ( No.405 )
- 日時: 2010/09/25 16:58
- 名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)
+*嘘だらけの境界線*+
「しげと、」
届くかな、聞こえるかな、って、少し心配になるぐらい小さく呟いてみた。
別に大した意味なんてない。茂人の顔が見たくて、茂人の声を聞きたくて、茂人に振り向いて微笑んで欲しかったから。それだけ。
だけど茂人はちゃんとこっちを見てくれて、どうしたのクララ、って優しく声をかけてくれる。
やっぱり茂人は私のこと好きなんだ。当然よ、だって私達付き合ってるもの。
そう安心する。——ああ、本当はわかってるの、知ってるの。茂人は誰にだって優しいんだから、私に特別な感情があるわけじゃない、って。でもそんなこと思いたくなくて、だってだって、ずーっと積み重ねてきた茂人への想いが伝わって受け入れられて、嬉しいのに幸せなのに、本当は愛されてるわけじゃないなんて、……そんなの。
「茂人、私のこと好き?」
「……? うん、好きだよ」
にっこり笑って、ああその笑顔が大好きなのになんでこんなに憎らしいと感じてしまうの! 大好きなのに、大好きなのに。嘘だから。嘘の笑顔と嘘の言葉だから。だから嫌なの。前まではそんなことなかった、本当に私のこと想ってくれてるわけじゃないってどこかでわかっていながらもそれだけでよかった。茂人と一緒にいられるだけで幸せだったのに、楽しかったのに。でももう今じゃ自分を誤魔化すことなんでできない。なだめることなんでできない。結局私の想いは無駄だったんだ。理解されることも消えることもできない暗闇の中を彷徨う想い。どうしてこんな想いが生まれてきてしまったんだろう。
『ふん、そんなの表面上のことよ、本当の恋人になんてなれはしないわよ! だって茂人は皆を好きで皆を愛していないんだから!』
そんな杏の言葉が蘇る。私茂人と付き合えるんだよ、そう言った時に返された冷たい言葉。鼻先で笑って馬鹿にされた。
あの時はただの嫉妬、負け犬の遠吠え、なんて惨めで哀れなんだろうってそう思ってた。
でも彼女が言ってたことは本当だった。茂人は私を愛してなんか、いないんだ。〝好きだよ〟という言葉は嘘ではないと思う。だけど私は茂人に〝愛され〟たいの! 愛されないんなら、こんな表面だけの繋がりは今すぐに壊してしまいたい。嘘の恋人という関係なら!
「……ねえ茂人、私のこと愛してるの愛してないの?」
茂人自身だってわかってないよね。違う、わかってないんじゃない。茂人にはその答え一つしかないんだ。その存在しか知らないから戸惑っているんだ。
「え、……好きだよ? クララちゃんのこと、大好き」
「——そうじゃない」
だから、ちゃんと聞きだせるようにしなきゃ。どんな手を使っても、ね? ——茂人の首を絞めることなんて簡単なんだから!
「く、ららちゃ、」
「そんな言葉必要としてない! 私が欲しいのは貴方の〝愛してる〟って気持ちだけ! 愛して欲しいの、貴方に!!」
突然のことに目を見開いた茂人は、綺麗な顔を歪ませながら私の手をどけようとする。そんな彼を無視して、ただただ叫ぶ。
「愛してくれないんならもうやめようよ、こんなままごとみたいな関係はさ? 私のこと嫌いなら嫌いって言って、それでいいから!」
「……きら、いなん、かじゃ」
「茂人はいつだってそうだよね」
自分で自分の言ったことに虚しさを感じた。そんなこと茂人に言ったってどうにもならないことわかってるのに。茂人は何もわからない優しすぎる純粋な男の子、それを理解していなかった私がいけないのに。
「……ごめんね」
私の無意識に呟かれたその言葉は、茂人が最期に絞り出したか細い呼吸の音に当然のように吸い込まれた。
恋人と友達の境界線って何なんだろうね。
答えを言ってくれる人なんていやしない。それにそんなこと知ったって私と茂人はもう変わらないんだから。
ゴメンナサイ。
嗚咽だけが響く。
+
ヤンデレなクラヒトです。
レアンはきっと過去経験があるんですよ、皆が知らないだけで。だからレアンちゃんの方が大人なのかもしれませんねえ。