二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 灰色の微笑 ( No.421 )
- 日時: 2010/09/24 18:16
- 名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)
+*灰色の微笑*+
禍々しい紫色の光——というよりは、〝影〟を纏った白黒のボールが空気を切り裂くような速さで、ゴールに立つ源田に向かって放たれた。威嚇する猛獣が見えるほどの激しさでボールを受け止める源田の手。凄まじい摩擦音がやみ、一瞬の静寂が張り詰めたころには悲痛の叫び声がグラウンド中に響き渡る。——いつものことだった。
「もう一回だ」
耐えられない苦痛に、地面へと倒れこむ源田への不動の一言は冷徹で非情なものだ。だからといって俺は源田に同情する気なんてない。俺の練習の時も不動はそう言うし、それに力を求めてここにいるのにそんなことを気にしているわけにはいかない。もっと強くならなければ——強く、ならなければ。
そう自分に言い聞かせても、いつのまにか固く握りしめていた手は汗が滲んでいた。
痛い。辛い。苦しい。怖い。俺のシュートの練習の時間はだんだんと迫ってきている。毎日毎日ずっとやってきたことなのに、あの練習を思い浮かべるとどうしても恐怖感が抜けなかった。人間なのだから痛みを恐れることは当然。だけど俺はそんなもの乗り越えなくちゃいけないんだ。恐怖心なんかに負けていてはあの人に勝てるわけもない。……だから、怯えている時間なんて俺には必要ない邪魔なものでしかなくて。俺に必要なのは力だけなのだから。
そうだろ、源田? お前もそう思っているんだろ?
「——なあ源田」
なんだ佐久間、と言って振り向く源田はだいぶ痛みはとれたようだ。灰色の瞳にはいつもの穏やかさが戻っていた。
源田は帝国にいた時とあまり変わっていない。いや、姿は変わったが心情にそこまでの変化はない。鬼道に勝つ、ということ以外は比較的のんびりとしていて穏やか。前に、佐久間は変わったな、と少し寂しいような表情をして源田が呟いたことがある。そうか? とその時は特に考えずに返したけれど、あの時源田は何を考えていたんだろう。どう思っていたんだろう。まあ、そんなことは別にいい。
「あのさ、練習……辛い、か?」
「え、なんでそんなこと」
不思議そうに問い返される。そうだよな、こんなこと聞いたって何の意味があるっていうんだ。源田が辛くても辛くなくても俺には関係のないことなのに。
「……まあ、辛いけど。痛いよ、かなり。でも佐久間だってそうだろ」
すると口ごもってた俺を見かねて、源田は軽い溜息と共に言葉を吐きだし。何かを諦めたような、最近よく見る源田の曇った瞳。
「別に俺のことなんてどうでもいい。……だから、だからさ、」
言葉の続きがでない。でないというよりは思いつかない。自分でもわからないのだ、自分が何を言いたいのか。源田に何を聞きたいのか。俺がわからないのだから源田がわかるはずもない。
俺と源田、どちらからも声は出ず、時折吹く風の音以外は無音の静寂が広がる。何か言わなきゃ、そう思っても何も出ない。なんとなく源田の顔を見たくなくて俯いたまま考えて。灰色の床は蛍光灯の光を冷たく反射しているだけで、答えを教えてくれなどしなかった。
さすがに気まずくなってきたころ、頭にどこか安心できるあたたかさを感じた。——源田の、手?
「それでも俺は、ここにいなきゃいけないから。いたいわけじゃ、ないけどな」
静寂を打ち破った源田の言葉が、何かに引っ掛かった妙な感じがして思わず顔をあげてしまう。視界には源田の後ろ姿。待て、そう言って源田の肩を掴もうとするとくるりと源田は振り返って、こう言った。
「意味は、必ずどこかにある」
悲しそうな微笑をつくりだす源田の灰色の瞳は、俺の動きを止めるには充分だった。
痛みにも苦しみにも〝負〟にも、どこかに。
+
真帝国の佐久間と源田。
自分の目的はわかっているけど正しいのかわからない、これに意味はあるのかと無意識に考えていた佐久間は同じ痛みを持つ源田に問う。そして源田の答えは、
という意味不明なお話です。
自分の考えたお題を書くとか変だろうか。まあいいですよね。あとこれはあくまで私のイメージです。