二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 永久の壊廃(どこまでも朽ち果てろ、) ( No.508 )
日時: 2010/10/11 19:13
名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

+*永久の壊廃(どこまでも朽ち果てろ、)*+


 言葉にならない呻き声が、こいつの白く細い喉から真っ赤な血と共に吐き出された。ぼたぼた、と硬いような柔らかいような音をたてて床に落ちる血。その床までの一瞬の間に血液はこいつの服にも付着し、ぼろぼろの服の数か所が黒ずんだ紅に染まる。じわり、とゆっくり広がっていく血染みはべったりとこいつの素肌に貼りつき、気持ち悪いほど白い肌が紅に混じって透けた。

「……ど、う」

 さっきの衝撃で壁に叩きつけられ、小刻みに震える華奢な体が床にへたり込んでいく。酷く掠れた声で何かを懸命に確かめるかのように俺の名前を呟くと、——微かに、微笑んだ。軽蔑とも自嘲の笑みとも、なんともいえない薄笑い。影が差している曇った青い瞳は射抜くような視線で俺を見つめている。

「ッ、こわ、れろ」

 なぜ笑っていられる。絶対に苦痛は感じているはずなのに。笑っていられる余裕なんてないはずなのに、なんで。どうして、壊れない? いつになったら壊れてくれるんだ。いつになったら、涙を見せてくれるんだ。なんで、俺の前でだけ泣かない? 俺のことが嫌いだから? きら、い、だから?
 疑問符で頭を覆い尽くされ、目の前にいる彼女がなんなのかすらよくわからなくなってくる。わからないまま、何もわからないまま、ただこいつの白い頬を撲りつけた。何かを砕いたような鈍い音の余韻が耳の中で響く。その音をつくりだした一つである彼女は、抵抗というものを忘れているのか暗い桃色の髪を揺らしてあっけなく床に倒れこむ。頬までもがべったりと紅く染まり、なのにまだこいつの薄笑いは続いていた。それを見た瞬間、頭の中が弾け飛んだような感覚に襲われる。

「壊れて壊れて壊れて、泣けばいいだろッ! さっさと泣いて崩れろよ、苦しいんだろ?!」

 熱をもった言葉を吐き叫んで華奢な肩を押さえつける。俺の爪が食い込んだのか、彼女の肩からじんわりと血が滲んでいく。すると——こいつの表情が、無に、なった。

「い、……や、」

 一瞬の静寂の中で、こいつの切れた唇から小さく言葉が洩れる。気がつくと、あの無表情はまたさっきまでの薄笑いに戻っていた。

「——さっさと、朽ちろ」


 〝今日も壊していいですか、〟



次に続く。