二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- こわれたとけい ( No.510 )
- 日時: 2010/10/11 19:17
- 名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)
+*こわれたとけい*+
隣でぼんやりと何かを見ている玲名の瞳は、この前までは澄んだ水色だったのに、今は曇った群青色だった。視界には何か映っているのだろうが、正常に脳まで届いているかはどうだろう。まったく目として使い物になっていないんじゃないだろうか。
どこか物憂げそうな表情。変わらないまま、ずっと何も喋らない玲名を見ていると好奇心が湧いてくる。
いつも冷静で冷徹だけど、ああしたら今はどういう反応をするだろう。早い話、実験。科学者になった気分だ。いや、マッドサイエンティストか? どちらかといえば、俺が毎日実験されてる側だけどなあ。今ぐらいは実験する方の気分を味わってみたい。
俺がそんなことを考えてる間も、玲名は動かない。瞬きしてるのか、と不思議に思ったけどそうじゃなかったら目が乾いて涙がでてくるはずだから、瞬きぐらいはしてるんだろう。じっと固まったまま、人形みたいだけどさ。綺麗なフランス人形、ってとこか。
さて。ポケットを探る。あったあった、いつか使うかなあ、使う時はできるだけ来ないで欲しいけど。そう思いながらもずっと入れていたもの。
別に俺がやるわけじゃないし、法律とかいう難しいものには違反してないだろ。ま、そんなこといったら器物損害で俺とっくに逮捕されてるか。でもまだ未成年だし、少年院に入れられるだろ。そうなったら少年院は俺だけじゃなく、かなりの少年少女でいっぱいになるな。
そんなことはどうでもいいや。
「玲名、これ使ってみる?」
あ、そうだ、今は玲名って呼んじゃいけなかったんだっけ。心の中では何回も言ってるけど、口には出さないように注意してたんだよな。言ったら睨まれるし。だけど今の玲奈なら大丈夫じゃないだろうか、ぼんやりしてるし。
ん、こっちに振り向いた。俺が差し出した物を見て——どうやら今は目が正常に機能しているようだ——、こくり、と頷く。
頷いちゃっていいのか。あれ、ヤバくないか? まあ俺は実験してるだけだし平気か。面白い実験結果にしてくれよ、そう念じながら玲名の次の行動を観察する。
あー、時計の音がうるさい。なぜかこの部屋は便利なデジタルではなく、振り子時計だった。今時ないよなあ、結構貴重じゃないか? ぼーん、ぼーん、ぼーん。誰も何も喋らないからますます大きく聞こえる。なのに曇った音。玲名の瞳みたい。
時計を今から蹴りまくって壊してしまいたいなあ、とか考えてると、玲名がやっと動いてくれた。
——俺の目がおかしくなっていないんなら、これが実験結果なんだろうか。
視界に移るのは、自分の腹にそれを突き刺した玲名。