二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

 だいっきらいのはさみ ( No.549 )
日時: 2010/10/24 16:28
名前: 氷橙風 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

+*だいっきらいのはさみ*+


「ねえクララ知ってたあたしあんたのこと大っ嫌いなんだ嫌いで嫌いで早く死んでほしいのあたし達友達でしょあたし達親友でしょあたしの頼み聞いてくれるでしょお願い早く死んでよあたしの目の前から消えてよもう二度とあたし達のところに来ないでよクララなんていらないんだからクララなんて必要ないんだから」

 紅い肩までの綺麗な髪は、いつもと違って振り乱されていた。いつもは、きちんと整えられているのに。
 歪められた蒼い瞳は、いつもと違ってくすんでいた。いつもは、もっと透明な青なのに。
 すらすらと言葉を紡ぎだす形のよい口は、いつもと違って刃物のような言葉しかだしてくれなかった。いつもは、もっと明るくしてくれる言葉をだしてくれるのに。
 細く健康的な肌色の手は、いつもと違って震えていた。いつもは、何も壊さないようにと、優しくふれていたのに。

 なんで、今私は杏の手で首を握られているんだろう。強く、強く、握りしめられているんだろう。
 なんで、こんなに呼吸が辛いの? 息を吸うことも吐くことも、どうして自由にできないの?
 なんで、杏の瞳から、液体が溢れ出ているの?

「あ、ん? どう、し、」

 喉が強い力で圧迫されて、息が通らない。二酸化炭素が喉に詰まり、酸素を取り込みたいのにそれもできない。その苦しさと単純に喉を押される痛みが、時折視界を暗くさせたり点滅させたり、手足を痺れさせたりしていく。頭が熱い。苦しい。
 それは杏の手が、杏がつくりだしているという事実を、私はどうしても呑みこめなかった。だって杏はこんなことする人じゃないもの。杏が、私にこうする理由なんてあるはずないんだもの。ないんでしょ? 私は、杏のこと好きだよ? 杏だって、ずっと私と仲良くしてくれて——

「早く死んでよ早くその心臓を止めてよどうしてまだ死なないの力が弱いからなの黙ってよあんたがいるからあたしはあたしはあたしはあたしはあんたがいるからあんたのせいで嫌い嫌い嫌い嫌いきらいらいららら」

 きらい、なの?
 杏は私が嫌いなの? 嫌い、何で? 私、杏に酷いことなんてしてないのに。喧嘩なんて今まで一度もしたことなかったじゃない。どうしてなの? 杏、私が何をしたの? 杏がここまで怒ることをしたの?

「あんたのせいで茂人が茂人があたしだって茂人のこと好きだったのにあんたなんかよりも何倍も好きだったのにもういいよ茂人もあんたも大っ嫌い茂人はあたしを選んでくれなかったんだものあんたの次に壊してやる嫌い嫌い嫌い皆嫌い死んじゃえ消えちゃえ早く死んじゃえ」

 杏の声が、よく聞こえない。耳が音をつかむという感覚がわからなくなってくる。
 それでも、杏が必死に何かを叫んでいるのはなんとなくわかった。なんでだろう。なんで、だろう、な。

「あたしはおかしくなんてないんだからあたしは正しいんだからあんたがいけないのあんたがおかしいのあたしは被害者なの間違ってないの間違ってなんかないのだからこれは正しいのあんたが消えるのは当たり前なの」

 視界が、暗くなっていく。杏の顔すら見えない。大粒の涙をこぼしているのが、うっすらと見えるけれど。
 杏、どうしたの? ねえ、どうしたの? 私わからないの。だから謝れない。私が何をしたのかわからなくて。謝ることができないの。でも、もう今更、

 謝ったって杏は止まらないんだから。

 貴方が正しいはずないでしょう、貴方はそのまま人の道を踏み外してしまえ。 
 貴方が私をこうするんなら、私は貴方を嫌ってあげる。それでいいでしょ? 満足でしょ? 



 ばちん、


 いとが、きれた。