二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 空色エンプティー ( No.591 )
- 日時: 2010/11/27 17:13
- 名前: 氷橙風 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
するり、と何かが抜け出るような音が、した気がする。
そんな音がするわけないのに、あくまでそれは感情表現の擬音なのに。耳がその音を“聴いて”しまったのは、きっと俺があまりにも茫然としてしまったからだろう。
言いようのない浮遊感。喪失感。そんなものに酔ってきて、足元が不安定になり視界にがくがくと割れ目が刻まれる。それほどこれが現実だなんて信じたくなかった。でもその釈然としない現実は、割れるなら割れればいいものを皮肉なまでにしっかりと目に映って。それと同時に、なんて自分が愚かだったのだろうかと自然と自虐的な笑みが浮かんだ。
弱かった。なにもかも弱くて弱くて弱くて、何もできなかった。
ジェネシスとの戦い。当然試合前に不安は感じていたけれどそれはいつもの状態のもので、こう言うのも変だけれど形式的、というか。試合で何が起こるかなんて全然わかっていなくて知らなくて、そして自分の弱さも全然わかっていなかった。
強くなれていると思っていた。厳しかったし辛かったし、全てを投げ出したい衝動に駆られたことも何度もあって、それでも試合前はその努力が絶対に結果に繋がると馬鹿みたいに信じきっていて。今の俺なら大丈夫だ、なんて思っていた自分が本当に恥ずかしい。ああ何を言っているんだろう、努力なんて虚しいだけのものなのに。
努力はした。それは事実だと言える。精一杯努力したのは事実だ。でも、それで強くなれるなんていうのは事実じゃなくてただの世迷言で夢物語。いや——そうだな、一部の奴ならそれは可能なのかもしれないけど。だけど残念ながら俺はその一部には入っていなくて、ただの普通の人間だった。それをわからず、努力すれば何とかなると言っていたあいつは本当に馬鹿だ。きっと、“一部”に入っているあいつのことだからずっとそのことには気づかないんだろう。そしていろんな人に「あいつが正しい」と思わせてしまうんだろう。俺がそう思っていたように。
体中が痛い。ずきずきと奥まで痛みが疼いて、時折骨が軋むような嫌な感覚に襲われる。
そんな痛みも、俺が強くなどなかったという証拠の一つで。目を逸らしたくなるほどそれは明確で一目瞭然だった。
……ほら、俺の努力なんて何の役にもたってないだろ?
段々と何かが抜けていく。担架に乗せられてどこかに運ばれていくその間に。なぜだろうか、この感覚はずっと前から味わっているみたいで、鮮明に既視感が浮き出てくる。いつからだろう。いつから、消え始めていた?
それにしても何を失っているのだろう、何が消えていくんだろう、そんな疑問も浮き出たけれど今の俺にはそれを考えている暇なんてなかった。それにどうせ、これからの俺なら溺れてしまうほど時間が有り余っているんだから。いつだって考えられるさ。
だからその前に、一言残しておかなきゃいけない。馬鹿で何もわかっていなくて、そして何よりも正しいあいつに。
「風丸! なあ風丸ってば——」
「……円堂、」
さよなら、
(諦めた空っぽの器に)
——空色エンプティー
+
いや……その、離脱時の風丸さんの心情を書きたかっただけでsごめんなさい殴らないで。
こうやって、自分でお題を考えてそれで書くっていうのが好きなんですー。まあ元のお題が意味不明なんでめちゃくちゃよくわからんことになりますけど……。
エンプティーは「空っぽ」みたいな意味です。空色といったら風丸さんだな! と。ふははははー。
あ、なんとなく題名? の書き方? を変えましたー。最初で一回、最後で一回。